シカクの愛

乙川美桜

第1話


「どうぞ?」


カチャンとカップを置く音だけが響く、静かな部屋。

紅茶の甘い香りが蝕むように充満してゆく。


彼、は「ありがとう」と目を細めた。

だけどすぐに真顔になる。

私はそんな彼の顔を見ないように目を伏せて、自分のカップを持った。


外は雪。ふと窓に視線を向けると白色だけが私の目に飛び込んでくる。その白色がこの部屋の暗さを引き立たせている。


これはきっと撃ち落とされた天使の羽根だわ、なんて思う。

雪なんてロマンティック、許さない。


テーブルの真ん中に置かれた小さな黒いソーサーに乗った、白い角砂糖。

甘党な彼はお砂糖を一つ、紅茶に入れた。


しおりは?砂糖入れないの?」


何度も一緒に食事をし、お茶をした日々の記憶は、まだ彼の中に残ってるみたい。

優しい人の、優しい記憶。


「...........一つ、貰う」


私が答えると彼がトングで角砂糖を摘む。


「はい」


「ありがとう」


差し出したカップにポトン。

角砂糖が入れられた。

甘いお砂糖が熱い紅茶の中に、溶けてゆく。


スプーンでクルリと一周だけ、混ぜた。

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