水晶は輝く ~二つの世界の俺を救うために~
ぐみねこ
プロローグ 俺は『名前』が嫌いだ
彼女は言う――。
誰かの役に立つ強さがほしいと。
彼は言う――。
あの子に会うためならなんでもすると。
彼女は言う――。
いつか自分の気持ちを伝えたいと。
彼は言う――。
誰かを、自分を、好きになりたい……と。
―☆―
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
張り裂けそうな心臓の音を、深呼吸でなんとか沈めながら、俺は真横の椅子に腰かける。その目線の先は、見下すような鋭い目つきがまっすぐ俺を見つめている。
「名前を教えてください」
今月で何回目の面接であろうか。自分の名を口にするのは何度目であろうか。
口にするのも嫌になるほど、大嫌いな名前だ。俺がこんな名前でなければ、俺はもっと、明るい未来を送っていたはずだ。
言いたくない。言いたくない。
だが、ここで名前を言わずにためらっていては、当然のごとくすとーんとおとされるであろう。
「お、王子路美尾です」
おうじ、ろみお。
こんなふざけた名前のせいだ。
俺がまわりからいじめられる日々を送っていたのも、俺が中卒で学校をやめてしまったのも、俺がなかなか就職できないのも。改名したい。今すぐ改名したい。それができないなら俺の名前に合う顔になりたい。俺の名前に合う世界に行きたい。
王子という柄じゃないし、ロミオのように恋人もいないどころか、俺は女子も男子も自分も、人間はすべて大嫌いだ。
こんなふざけた名前にした両親、ふざけた名前を笑ってからかう、女子男子。人間のクズ共。そんなこと思ってる俺だって、俺が嫌いだ。俺は俺がクズだと思う。全部名前のせいにして、こうしてわけわからない会社の椅子に座っている。わけがわからないまま、こんなふざけた名前を口にしている。
全国の王子さん、ろみおさん、ごめんなさい。でも俺はとにかくこの名前が大嫌いなんだ。仕方がないことなんだ。
「……聞こえてますか? 王子さん。自己アピールをお願いします」
ほうら。ほらほらほら。
みんな俺を見下した目で馬鹿にする。王子みたいな顔してないのに、みんな俺を王子、王子と、ばかにしたように言う。
この気持ち悪さを、誰も理解しやしない。
「その名字を言うなっ!」
……あ。
鋭い目つきがさらに鋭くなり、今にも噴火しそうな面接官は、ごほん。と咳払いをする。いつもこうだ。短気で根暗な俺はいつもこうやって失敗する。
もう終わりだ。どうせ終わってしまうのならストレスを全部吐き出して、この場からお去らばしよう。
「俺は自分の名前が、顔が、性格が、女子が、男子が、親が、親戚が、町が、国が、世界が、全部、全部が嫌いだ!」
――バタン。
大きなドアの音が、今日も見事に建物中に響いていた。
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