ココア
私の目を反射した太陽光がコップの底に残った何かを黒く焦がして、初めて、その姿を見せた。泥みたいなその表面が、僕の輪郭を明確にする。――いつの間に私は、こんなに焼けてしまったんだろう――真っ黒な私が僕の形をして、つまらなさそうに私を見つめている。どうしてこんなに目が合うのか、分からない。どうして自分の姿を認められないのか、分からない。昼の間、夜はこんなところにいたのか。そう思って、見つめてみたけれど、そこに星の光の一つも見出せないから、どうも違うらしい。じゃあ泥沼かな、とも思ったけれど、やっぱり違う。這いつくばるには小さすぎる、その黒い表面。私が目をつむっている間、この黒い僕も目をつむっているだろう。その間、私は私の外のものは何も見えないけれど、私には分かる、真っ黒な僕も目をつむっている。甘い香り、チョコレートの香り。香水なんてつけたことないのに、僕の形をした私から、いいにおいがして、思わず私は目を開ける。目が合った、目が合った。見開かれているその目に驚いて、「わっ」と声もなく息を吐いた。さっき飲んだ、ココアの甘いにおい。慌ててコップを傾けて、吐き出してしまった息を取り戻そうとする。真っ黒な僕にそれを盗られないように、「動くなよ」って、にらみつける。にらみつけられる。だけど真っ黒な僕の輪郭は、どろどろと溶けていって――気づけば私は、ここじゃないどこかを見つめていた。
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