視界の中に命がいる

(もう、一人にしてくれないかな)


遠いところを眺めるように、

焦点の合わない目でテレビを見る

その画面の向こう側では、

命無き命が必死に役を演じていた


(もう、一人にしてくれないかな)


ヘッドホンから流れ出る音楽

外から聞こえる女の人の笑い声

手元のスマホの画面は真っ暗で、

そこには嫌いなやつの顔が映ってた


(もう、一人にしてくれないかな)


電話の隣の鳥かごの中、

文鳥が腹を空かして鳴いていた

窓の隣のパソコンの前、

私も空っぽになって泣いていた


(もう、一人にしてくれないかな)


生きてりゃ、しょうがないか、

そんな気持ちを抱えてしまうのは

なんて、上手に割り切れるほど、

キレイには出来ていませんし


(もう、一人にしてくれないかな)


死んだらあの世に行ってしまいますし

あの世には死んだ人たちがいますし

言ってみれば背後霊がここにいますし

結局、私は一人にはなれませんし


(もう、一人にしてくれないかな)


私に声なんて無いですし

私の言葉は言葉のまんまですし

ずっと私は一人にはなれませんし

嫌いなやつが離れてくれませんし


「もう、一人にしてくれないかな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る