第17話 古の地下迷宮 6~9層、そして10層

 6層からダンジョン内の雰囲気が変わり、5層までより壁の色が微妙に暗くなった。

 出てくるモンスターもAランクモンスターばかりになり、さすがにリュミヌーに経験値を稼がせつつ討伐していく余裕はなく、ほぼ俺が倒していった。


 もし上の層で『光剣ムーングレイセス』と『カーバンクルの盾』を入手していなければ、6層から攻略ペースががた落ちしていたに違いない。Aランクモンスター、デビルナイトを袈裟斬りして倒しつつ、俺はつくつく運が良かったと思うのだった。


 のんびり攻略してると体力が持たないと思ったので、下への階段を見つけ次第すかさず降りていき、どうにか9層まで辿り着いた。


「アラドさま、シャンテの気配がすぐ近くに感じます」


「この階にいるのか?」


「いえ、多分この下の階です」


 という事は、10層か。当然そこには5層みたいなボスモンスターがいるわけだ。

 もしシャンテがそのボスモンスターと戦闘中だと厄介だな。そうじゃないのを祈るばかりだ。


 できるだけ戦闘を回避しながら9層を探索し、階段を発見。

 いよいよこの下か……。

 俺は意を決して階段を降りる。


 階段を降りると細長い廊下に出た。

 周りにはモンスターはいない。俺は周囲に気を配りながら廊下を進む。

 しばらく歩くと例によって長方形の大部屋にでて……。


 そこで激しい戦闘が行われていた。


「ぐあああああ!!!」


「ミロシュ!!」


 聞きなれた声が耳に届く。

 大部屋の中央あたりに、巨大な甲羅で覆われたカニのようなモンスターと4人の冒険者が戦っている。

 あいつらは……! セリオス達か!?


 斧を両手で持ったアイスブルーの髪をした青年――セリオスが心配そうにふっ飛ばされたオレンジ髪の青年――ミロシュに声をかける。


「ちっきしょお……!」


 満身創痍ながらよろよろと立ち上がったミロシュは、足元に落ちていた自分の武器を拾う。


「その傷じゃ無理だ、下がれ!」


 杖を構えて火炎魔法を放ちながら、ローブ姿の青年――ヨアヒムが怒鳴るが、ミロシュは太刀を構えたまま逃げようとしない。


「るせぇ! オレはまだ負けてねぇ!」


 威勢よく声をあげるが、ダメージが蓄積しているのか、立っているのもやっとって感じだ。

 カニみたいなボスモンスター――デスクラブはその巨大なハサミを振り下ろし、盾を構えた女性冒険者に攻撃している。

 女性冒険者は右手に槍、左手に自分の身長ほどある大盾を構えてデスクラブのハサミ攻撃を必死の形相でガードしている。


「まずい……! このままじゃテレーゼが……!」


 うろたえたような口調で呟くセリオス。

 あのテレーゼとかいう女性冒険者が俺の代わりに勇者パーティーに加入した冒険者か。

 テレーゼは必死に挑発スキルを使ってデスクラブのヘイトを一身に受けている。タンク役ってわけか。

 ああやって自分に攻撃を集めている間に、半壊したパーティーを立て直そうという魂胆だ。


 本当なら今のうちにアイテムや回復魔法を使って、体力を万全にしてから仕切り直すべきなのだが、頭に血が上ったミロシュが無謀にも太刀を構えてデスクラブに突っ込んでいく。


「らぁぁぁぁぁ!!!」


 そして、テレーゼの思惑を理解してかどうか知らんがセリオスも紫色の斧を構えると、ミロシュの後に続いてダッシュする。


「うおおおおお!!!」


 離れたところで戦況を見守っていたヨアヒムも杖を構えると、詠唱をはじめた。


「あっ……!!!」


 彼ら3人の行動にテレーゼの瞳が絶望の色に染まる。


「くらえ!! 『堕天魔王刃』!!!」


「いけぇー!! 『ギルティドライブ』!!」


「炎の精よ、彼の敵を爆殺せしめよ……! 『エクスプロージョン・レイ』!!!」


 3人は同時に己の全身全霊を持って必殺技を繰り出した。


 まずミロシュが大きく跳躍して両手持ちした太刀を頭の上から垂直に振り下ろしデスクラブの甲羅に斬りつけた。その後にセリオスがオーラをまとった斧を右後方に振りかぶり、そのまま力任せにぶん回し同じところに叩き込む。最後にヨアヒムが唱えた魔法がデスクラブに炸裂し、轟音と共に爆発を起こす。

 爆風が観戦している俺の所まで届いたので、右手で顔を覆った。俺の銀髪と服が爆風によって靡く。


「はあ……はあ……やったか……!?」


 3人は持てる力をすべて使い果たし、両手を膝にあててゼエゼエいっている。

 デスクラブのいたところは煙が充満していてどうなっているか見えない。


 祈るような気持ちで煙が晴れるのを見守っていた3人だが……。

 煙が晴れ、徐々に黒いシルエットがハッキリ見えてきて、煙が完全に晴れた時、3人の顔が絶望に歪む。


「ま、マジかよ……!」


「そんな……! 俺たちの全力を叩き込んだはずだ……!」


「化け物め……!」


 そこには、甲羅に僅かなヒビが入っただけのデスクラブの健在な姿。

 見たところ、ほとんどダメージは受けていない。

 そしてさらにヤバいことに、テレーゼに向かっていたヘイトが、全力攻撃したセリオス達に向いてしまっていた。


 デスクラブがくるっとセリオス達の方に向きを変え、両手のハサミをガチガチと鳴らしながら、既に息切れ状態のセリオス達に迫っている。


「……! セリオス! 危ない!」


 テレーゼが挑発スキルを使うが、デスクラブのターゲットは変わらない。


 デスクラブの右手のハサミがセリオスの胴体を二つにぶった斬ろうとする寸前、


「……! な、お、お前、アラドか!?」


 俺は『カーバンクルの盾』で、デスクラブのハサミ攻撃を受け止めた。

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