4-⑦:オレの夢

―夢を見た


 夢だと思う。

 目の前にいる相手の顔を必死で笑顔で見ようとするが、どうやっても涙があふれそうで。だけど、うまくごまかせていることを信じて。


―なあ泣けよ


 いつもはそっけない彼。だけど、その時の彼はオレをじっと見つめ、一言そういった。


 見透かされていたみたいだ。

 それが悔しくて、絶対に泣くもんかと思ったけど、もう駄目だった。我慢できなかった。

 目から涙が堰を切り、どうやったってもうそれは止められなかった。


『オレ、もうやだよ…』

 嗚咽に邪魔されながらも、本心を決死の思いで吐く。しかしそれはかすれて力なく、この広い世界では何の意味も持たないつぶやきに過ぎないのはわかっていた。


 彼に頭を撫でられ、それを心地よく思いながらも、次の瞬間にはそれが消えてしまうかもしれない恐怖を捨てられないでいる。


『…お願いだから、約束して』

 オレは泣きじゃくりながら言う。


『お前だけは、生きていてくれるよな?』

 決死の思いで約束を求める。だけど、彼は頷いてくれなかった。


 彼が約束してくれたのは、叶うあてなどない望みのない話だった。

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