ラドックソウル

@gurassimiri

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 2005年、7月22日。今日は待ちに待った夏休みの前日。最上小学校の6年生での教室では、1学期のテストの成績が渡されていた。

「それでは名前を呼んだ順に来なさい」

 次々と名前が呼ばれていく。安堵する表情の生徒、青ざめる生徒。教師はそれに対して、一言ずつコメントを添えて紙を手渡す。

「いちご、よくやった」

「はい、ありがとうございます!」

「泥利、もう少し頑張れ」

「は、ハイ」

 そして最後の生徒。クラス内の雰囲気が少し変わった気がする。

「次、…太丸」

「ハイ!」

 ひときわ大きな返事をした男の子。楼栗太丸は中央の列に直角に入り、教師のもとへ直進する。

 そして教壇の前に。少しの間。

「…百点だ。」

「おおぉ!」「またか!」

 教室は、はりつめた雰囲気から一転、祝賀モードへ。太丸はみなにガッツポーズを見せて応える。

「おっしゃ!輝いてるぜ!」

 それに対し、気にくわないヅラ頭がひとり。大きな咳払いをして、生徒達を静め、太丸にだけ前々から用意してあった特別なコメントを付け加える。

「狭い世界でトップであっても、中学いき広い世界では通じないぞ。慢心することないように」

「ハイ!わかりました!俺、もっともっと頑張ります!」

 即答。右回れをして、先生に背を向けて元の席へと着席する。

 あまりの屈託のない姿に、逆にヅラは苛立っているご様子。

 終礼の鐘がなる。皆は今か今かとウズウズしているようだ。

「それでは各自、夏休みは遊びばかりではなく勉強に集中するように」

「はぁぁーい!!」



 帰る支度を始める生徒達。夏休み前だけあってウキウキとした表情が目立つ。そんな教室のはじっこで、二人の少年が話している。

「うぜぇよな森岡、妬んでやがんの」

 そういうのは6年生男子にしては小さめで、動きやすくスポーティーな衣服を着た少年、諸星輝矢流。どうやら先ほどの教師の態度が気にくわなかったらしい。

「いいんだよキヤル、輝きが眩しいこともあるさ」

 自分に変わって怒ってくれている親友に屈託のない笑顔、キランと光る歯をみせて答えるのは百点少年こと太丸。いかにもやんちゃという服装にやたら目立つ赤いスカーフを巻いている。

「ま、そうだよな。ところでタマル、お前自由研究なにすんの?」

「ん?俺は…。」

 返事をしようとした瞬間にひときわ大きな声が教室に響きわたる。

「愛宕山にダイアモンドが埋まっている洞窟があるって本当なの泥利!?」

 小学生らしい可愛らしい嘘がねじ込まれた話だ。まだこの子達は純粋なのだろう、信じ混んでいるご様子。

「うん、お兄ちゃんがいってたんだ。昨日、宝石屋に売り払って10000円もらったんだって。」

「へー」

 一万あればゲームソフトが買えるなぁという表情の子供達。そこにさっきまではじっこにいた二人が割り込んでくる。

「面白そうだなぁ、その話!タマル、自由研究決まりだな」

 輝星流は少し遅れてきた主人公に声をかける。

「ああとも!今年の夏休みは探検だ!」

 最上小学校、六年生の教室で物語はスターとした。


 7月23日、愛宕山ふもとで集合した2人の少年と……。

「で、何でコイツがいるんだ?」

 1人の少女。

「コイツ呼ばわりしないでよ!」

 1人なのに十分かしましい状態。いや、やかましい。

「男子三匹じゃ何を起こすか危険じゃない。そこで委員長であり才色兼備な私がついていってあげるってわけ」

 2つほどコンボが繋がりそうなオプションを添えて自己紹介をしてくれたのは姫いちごちゃん。山登りをするのに間違いなく不相応な、赤を基調としたいかにもいかにもな服装に、申し訳程度のサンバイザーをつけている。

「才色兼備って……」

 と、ツッコミをいれる輝星流少年。

「心配して来てくれたのか。ありがとな」

 と、イケメンを見せつける太丸少年。

 そこに駆けつける1人の少年。慌ててやって来たその子はしっかり山登りのあり方を心得ているようだ。

「ごめーん!遅くなっちゃった」

 この少年の名前は冬日角泥利。お寺さんの長男で、このメンバーでは一番の長身。

 輝星流が少し驚く。

「おっガイドさん…ってなんだその大荷物」

「こっこれ?…変かな?」


 回想。


 13分前。

【友達と?持ってき持ってき】

 お婆ちゃんの優しさ。


 回想終わり。


「冒険って言うから、い、一応ね!」

「んじゃ、えーと名前は…」

「泥利だよ、冬日角」

 照れ臭そうに話している泥利に太丸が声をかける。

「よろしくなデーリ!案内頼むよ。」

 これまた恥ずかしそうに頷いてこたえる。

 そして委員長が号令を告げる。

「それじゃあ出発!ついてきなさい!」

「仕切ってるし…。」

 愛宕山へと挑戦する四人だった。



「暗いわねー。」

「懐中電灯4つあるよ!」

「おっいいねー」

 洞窟に辿り着いた四人。体力はまだ溢れんばかりにある。

「おっ……おっ!あれは……!」

 最初にライトをもらった輝星流が真っ先にあるものに気づく。

「ゲームの……筐体?」

 明らかにその場には相応しくない物に面を食らう。

「すげーじゃん!ダイアモンドなんていらないよ!これ、持って帰れるかな!?」

 テンション爆上げの輝星流。

「流石に無理だろ」

 という冷静な太丸のこたえに肩を落とし。

「だったら、ここでやってくか!?」

「バカねー、電源つかないでしょ」

 いちごの言葉にノックダウン。


 ヴィーーン


 筐体が光を宿す。

 それに驚く一同。

「グラッシミリプロジェクト第二弾、ソウルブル。起動します」

「点いたぜ点いたぜ!やったやった!

 はげしく喜ぶ輝星流。驚きを隠せないいちご。つれてきたかいがあったと泥利。

 そして一人、危機感を察知して冷や汗をかく太丸。

「聞こえますか、弱きモノよ。あまねく銀河のテラに生きる魂よ」

 機械音のような女性の声。

「あなた達の星の輝きに敬意を、そして我らの魂に救いを」

 怪しい雰囲気にいちごが恐怖を覚える。

「…何かおかしくない?」

「いや、雰囲気出てるぜコレ」

 ゲームが大好きな輝星流は画面の光に吸い込まれていくような瞳。


「Draw your soul to sheol. Welcome.」


 そう告げられた瞬間、辺りの景色が揺らぐ。

 立っていられなくなった太丸。

「キャル、いちご、デーリ!大丈夫か!?」

 声をかけるも返事はない。ただ……。

「勇ましいね仲間思いダ。でも自分の心配しナ」

 見に覚えのない声。

「お前は…?」

「明星。お前の大好きな輝きサ」

 辺りを金色の光が包む。

「来いよ太丸、待ってるゼ」


 その声の後、その場から少年たちは消えた。 残っているのはゲームの筐体のみ。

 辺りを照らしていた光が消える。

 暗闇だけが残る。恐ろしく、黒く冷たく果てしない闇だけが残る

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