第6話 閑話、気まぐれオマケ話



 翌朝……


「さて、今日はみんなドコを見て回るのかね?まだまだ行っていない箇所もあるだろう」


カムイがバミューという羽を持つ生物の卵を焼いたモノをナイフで切りながら皆に問い掛ける。

ヒカリ達は宿一階の酒場にて全員で朝食を食べていた。


「俺は適当にぶらつきます、お金は持ってないから見るだけですが」


「そんなんじゃせっかくの祭もつまらないでしょ、私がご飯くらい奢ってあげるわよ」


「そんな、宿まで世話になってるのに悪いよ」


「気にしないでいいわよ、賞金で返してくれればいいわ」


「が、がんばります…」


「ふむ、ではツカサはヒカリ君にいろいろ案内してあげてくれ。ガロン君とリュナ君はどうするかね?」


カムイは微笑しながら、焼いた魚にかぶりつくガロンに話を振る。


「んー、俺は別にもうやりたいことはねぇな。リュナはどうするよ?」


するとリュナはがさごそとポケットを探り、1枚のチラシを取り出した。


「これ……食べたい……」


「なになに?かすていら…?なんだそりゃ?」


リュナの取り出したチラシにはデカデカと『ミヤコの新名物!かすていら!』と書かれていた。


「あー、それ最近話題になってるお菓子よね。確かミヤコの人が作った新しいお菓子とかなんとか、祭の露店にもあるのね」


「へー、んじゃあ食いに行ってみっか」


ガロンが同意を示すとリュナは顔を輝かせて小さくコクコクと頷いた。


「カムイさんはどうするんですか?」


「私は少し頼まれごとがあってね、祭はあまり回れなさそうなんだ。まぁ私の分も楽しんできなさい」



 それから小一時間後ほど。

準備を済ませたヒカリとツカサは露店の立ち並ぶ大通りを歩いていた。


「なんか気になる店があったら遠慮せず言いなさいよ」


「わかった、ありがとう」


そのまま少し通りを歩いていると香ばしい匂いが漂ってきた。

匂いの元を辿るとそこには『絶品!ドムゥ串!』と書かれた露店がある。

店のカウンターにはぶつ切りにされたドムゥの肉が刺さった串が何本も火にかけられていた。


「つ、ツカサ…あれ…」


「ん?あぁ、あの店ねハイハイ」


飢えた獣のように露店に釘付けになるヒカリに若干呆れながらツカサは答える。


「それで、何本欲しいの?」


「な、何本まで良いんだ?」


口元から涎を垂らす勢いのヒカリがツカサの顔色を伺う。


「何よその聞き返し…図々しいわよ…。まぁ一本か二本にしときなさい、まだまだ露店はあるんだし」


「わ、わかった」


「じゃあオジサン、これ三本ください」


ツカサが店主に串を買い、ヒカリに二本渡す。

香ばしい匂いを放つそれは油に濡れてキラキラと光を反射した。


「いただきます!」


待ちきれないといったふうにヒカリは串に食らいつく。

みるみるうちに串からは肉が消えていった。


「おいしい?」


「うまい!」


食べながらモゴモゴと答えるヒカリをツカサは苦笑しながら見る。


「あんたってけっこう大食いなの?」


「わからん!食い始めると止まらん!」


「あっそ…食べかけで良かったらこれあげるわ。あんたの食べっぷり見てたらお腹いっぱいになっちゃった」


「なに!ありがとう!」


「どういたしまして」


その後もヒカリはツカサの財布が空になるまで露店の食べ物屋を食い漁った。



 一方そのころ


「この辺だな、そのかすていらがあるのは」


ガロンが上に目を向けながら肩車しているリュナに尋ねる。

リュナの方はチラシに載っている地図を見ながら道案内をしていた。


「…うん…」


「ん、甘い匂いがしてきたな」


「わかるの…?」


「ああ、俺は鼻が良いからな。この匂いの方向からすると…こっちか」


ガロンが匂いを辿って道を曲がるとすぐに『かすていら』と看板に書かれた露店を見つける。


「あったあった。俺は甘いもんは量食えんからそんなにはいらんな、リュナは何個食うんだ?」


「んー……私も…そんなに食べられないかも……」


「んじゃあとりあえず一個買って半分ずつ食うか」


「うん…はんぶんこ」


ガロンはリュナを肩車したまま露店でかすていらを1つ買うと、人混みを避け近くにあったベンチにリュナを下ろし、自分も腰掛ける。


「ほれ」


「ありがと」


袋から取り出したかすていらを半分に割ってリュナに渡す。

ガロンはヒョイっと一口で全てを、リュナは小さな口で少しずつ噛る。


「ん、うめぇな」


「おいひい…」


「もう一個買うか?」


「うん…今度はわたしがかってくるね…」


「おう、頼んだ」


リュナは残ったかすていらを口に詰め込むとトテトテと歩いていった。


 しばらくして…


「はい…これガロちゃんのぶん」


「お、ずいぶん時間かかったな…ってなんだこの量!?」


リュナは両手に抱えた紙袋にかすていらを満杯にしていた。


「お店にあるの…ぜんぶ買ったの…」


「いやいやいや…買いすぎだろ…」


「おいしかったから…だめ…?」


「い、いや…うーん…」


不安そうに自分を見つめるリュナにガロンは抗えず、結局リュナが買ってきたかすていらをきっかり半分食べた。

その後ガロンが凄まじい胸焼けを起こしたのは想像に難くない。ちなみにリュナは平気で全て食べたようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る