星と記憶の物語―ライトライズアゲイン―

ミドリムシ

プロローグ

 男と少女が手を繋いで走っていた。

もうどうにもならないと知りながら、それでも遮二無二走っていた。

繋いだ左手の熱さが男の足を動かしていた。

走りながら後悔を噛み締めるように俯く。

今までの自分の愚かさを、無責任さをどうしてもっと早く気付かなかったのだろう?


 ふと、目の前に人影が現れる。

それが誰かを確認するよりも早く右手を向けた。

それが動くより先に右手の黒い塊が火を吹いた。

どさりと倒れたモノを見ても何も感じない、考えない。

どこかに身を隠せる場所は無いだろうか、そんなことだけが頭にあった。


 なんとしても手を繋いだこの少女だけは助けたかった。

自分自身は何をどうしても、もう助からないだろう。

小さな杭を打ち込まれた胸がそれを証明するかのように痛んだ。


「まって…!お願い…!もう走れない……!」


 繋いだ手の先から聞こえた声に立ち止まって気付いた、いつの間にか周りには誰の気配も無い。

自分たちを追ってくるものも無いということに。


「逃げ切れたのか…?いや、しかし……」


戸惑いながらも、自分の中の冷静さをかき集めた。

しかし答えは出ない。

自分たちを追っているものが自分たちを諦めることなど、絶対に無いと解っていた。

ならば何故、追撃が止んだのだろうか。


「ねぇ、もう怖い人たちこない?」


安心させようと無理矢理笑顔を作るが、きっとひどい顔だろう。

笑顔を作るのは得意じゃなかった。

腰まで届く綺麗な赤い髪の感触を手のひらに感じながら答える。


「わからない……でも、もう少しだけ先に行こう。

もしかしたら身を隠せそうなところがあるかも……」


 そこで言葉は遮られた。

空からゴォッと爆音が響きわたる。

音の正体を確かめようと上空に目を向け、遠く空に輝く"それ"の姿を視界に捉える。


同時に全てを理解した。

もう何もかもが遅いということを。


そして自分が、自分の信じて従ってきたモノがいかに愚かで救いようの無いモノだったかを。


「ごめん……!もう俺には……!俺には君を……!」


「もう、ダメなの……?」


「遅かったんだ!俺は!何もかも!

ごめん……!本当に……!俺は君に!何も……!!」


「ううん、いいの、嬉しかったよ

ありがとう」


「ヒカリ……!俺は……!」


そして閃光と熱とが全てを包んだ。




 これは、出会いと別れの物語ーー夜は終わり、朝が来る

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