15.クレープと姉御肌
「ふーん。休日をまったりねぇ。どこ行くの?」
店員さんが洗い物をしながら僕らに訪ねた。
「特に決まってないんですよね。」
「静香さん、いいとこ知らない?暇潰せるとこ!」
春が店員さんを静香さん、と呼んだ。僕が店員さんの顔を見ると、春が僕の方を向いた。
「あ、こちら静香さんね。1人でお店切り盛りしてるんだよ、すごいよね。」
洗い物を片付け、再びタバコに火を着け彼女が僕を見る。
「静香さんです。よろしくね、裕也。」
裕也、と呼ばれた。男勝りなお姉さんの雰囲気を僕は素直に受け止めた。
「はい。よろしくです。」
「それで、暇潰せるとこかぁ。そうだね。ここから駅近いし、少し足伸ばしてもいいんじゃない?どうせこの辺何も無いし。」
電車か。悪くないかもしれない。
春がカフェラテを飲みながら考え事をしている。
「んー。電車使うんだったら映画でも遊園地でも、なんでも行けちゃうねー。逆に迷っちゃうかも。」
静香さんが客席のフロアに出てきて、ガサガサとマガジンラックを漁って1冊の雑誌を持ってきた。
「はいこれ。なんかいいとこあるかもよ。」
表紙にはデカデカと『春を先取りデートプラン!これ1冊で満足特集!〜定番篇〜』と書かれていた。
静香さんがニヤニヤしている。お節介が好きな人のようだ。
しばらくの間、春がパラパラとページをめくっていると、何か気になる物を見つけたらしい。
「食べ歩き!ここの商店街近いよ!」
春が雑誌の一面を指差し僕に見せつける。
「新しいクレープ屋さんできたんだって!これ最近人気のとこだよ!」
どれどれ、と静香さんがのぞき込む。
「あぁ、ここのクレープ美味しいよね。」
「そうなの?まだ食べたことないんだよね!食べてみたい!」
「最近食べたんだけどね、チーズケーキが入ったクレープすごい美味しかったよ。」
「へぇいいなぁ!裕也くん、食べ歩き行かない?」
春が目を輝かせながら僕を見る。
「クレープ食べたいでしょ?いいよ。」
「やった!」
春はとても嬉しそうだった。そんな春を見て僕と静香さんは笑った。
「あ、春ちゃん。」
「なに?」
「ついでだし、画材屋さん寄ってったら?前言ってた0号キャンバス、ないんでしょ。」
「あぁ…うーん…。そうだなぁ…。」
絵の話だろうか。
「描きたいもの、あるんでしょ?」
「うん…そうだね、買ってこようかな。裕也くん、ついでに画材屋さんも寄らせてほしいな。いい?」
春が僕を見る。
「いいよ。なにか描くんだね。」
「ありがとう。うん、そのつもり。」
「出来たら見せてね。すごい見たい。」
静香さんがクスクス笑っている。
「春ちゃんよかったね。ファンできたじゃん。」
春が照れくさそうに言った。
「はは、そうみたい。嬉しいな。」
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