わたしリボルバー

織倉未然

プロローグ

 これは、わたしという一人の人間についての話だ。自分語り。そういうことになると思う。わたしは、夏の街に迷いこんだ羊のようなものだった。

 午睡から目覚めた時、群れはすでになかった。食む草と仲間を求めて彷徨う内に、わたしは永遠の夏が支配する石造りの街に辿りついた。

 わからない。記憶は定かでない。

 わたしが目覚めた時、わたしには生活が用意されていた。何の変哲もないそれは、その街で今までずっと続けられてきた慣習で、また今後も継続されるだろう事柄だった。日が昇って、沈む。そこの住民は朝に起きて、顔を洗い、歯を磨く。各々仕事に赴き、決まった時間には家に戻る。そういう当たり前の連鎖が、延々と繰り返されてきたし、今後も間違いなく繰り返される――そういう風に決まっていた。

 永遠の夏。

 それがキーワードで、その街の法則だった。

 でも、誰かが出て行く必要があった。わたし達はみんなそのことを理解していた。求めていた。単に暇から、気まぐれから、渚にボトルメールを放るように、わたし達は誰かに何かを――その実在に関わらず――伝えたいと思っていたのだ。使命とか、義務とか、そういうものでは決してなかった。あるいは、もっと単純に、わたし達は羊であることを止めたかったのかもしれない。

 ともかく、季節はいつだって溶けるような夏で、それは永遠に続くことの約束された、夢みたいな日々だった。

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