第48話 復讐するは我にあり

前に馬超のDQN伝説を語った回の中で王異という女性について少し触れた。彼女は三国志に唯一、戦場に出たと記録された女性である。

現在は無双シリーズでも登場するが、もう当たり前のように女性キャラも使えている段階から登場したのであまり唯一戦場に立ったと想像するのは難しい。

馬超を狙うのは以前触れた通りで騙し討ちにあった韋康の復讐を果たす為であるが、何処かヤンデレ属性がつけられてしまっていて恐ろしい。史実の王異はどんな人だったのだろう。

彼女は韋康配下の武将であった趙昴の妻で文武両道の女傑だった。

ある時、住んでいた県で反乱が起きた際、二人の息子を失った。賊に体を侵されることのないよう食をたち最後は自害しようとしたが、まだ息子が生きていたので思いとどまったと言われている。

ちなみに娘と共に夫の委任地まで逃げ別れ後、実際に薬を飲んだが気絶して、たまたま解毒剤があったのでことなきを得た。

馬超が反乱を起こした時は韋康に従い、冀城に立て籠もった時には甲冑を着て城兵の士気を高め、兵には惜しみなく金品を出したという。しかし、籠城して8ヶ月、士気が衰え救援が来る見込みが立たないので韋康は馬超に降伏しようとした。趙昴は彼に反対したが聞き入れられず、帰宅して王異に語った。

すると、「君主には諌める臣下がおりますが、臣下には咄嗟の時には専断する事が認められています。今、救援が近くにいるとは限らないでしょう、ここは籠城し続け援軍が仮に来なかったとしても死を全うする方がマシです」と語った。

はっとした趙昴は急ぎで韋康を引き止めようとしたが、すでに降伏した後だった。

韋康が殺された後、彼は息子を人質に出して仕方なく馬超の下に着いた。とはいえ、馬超自身も裏切りが怖い。そこで王異を宴会に招いた。裏切りを悟られたくない王異は妻の楊氏に取り入り信用を得る。妻が言うならということです馬超は趙昴は裏切らないものと思い立った。当然、そんなことはなく彼は策略を巡らして反乱を再び起こそうとした。

いざ実行に移す際、趙昴は「相手には息子を人質に取られているが、どうしようか」と王異に語った。王異は

「忠義を立て、今は亡き主君の仇討ちをするのです。仮に首が飛んでも大したことはないはずです。たかが息子一人が何になりましょうか。そもそも項託や顔回が100歳まで生きましたか?」といった。

大義の為ならたかが息子の命ぐらい捨てろ、と言うことである。

吹っ切れた趙昴は反旗を翻して冀城を奪い返し、馬超を追撃し、援軍が到着するまで持ちこたえた。馬超は張魯のいる漢中へと落ち延び、その後も度々冀城を攻めた。しかし、趙昴の九つの策略を王異は影で支え、幾度も打ち破った。最終的に馬超は息子の趙月を殺し二度と冀城には攻めてこなかった。

魏を正統とする歴史書だけにどこまで本当なのかは分からないけれども、大義の為なら我が子をも見殺しにしながらも夫を必死に支えた女傑がいたと言うことは歴史的に見ても面白い。

昔、三国志の本で三国時代のジャンヌダルクと書かれていたが、ジャンヌという聖人のイメージは湧いてこない。ジャンヌと言うにはあまりに恐ろしい女傑だと思う。

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