そうだ、温泉へ行こう!
カゲトモ
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「っはぁ~生き返るるるぅぅ」
頭の上には折りたたんだタオル、目の前には悠然と広がる大海原。身体を包み込むのは少し熱めの源泉。あぁ温泉とはなぜこんなにも良いものなのだろうか。
「おっさんね、アンタ」
「お前もおっさんだろうが」
「まーね。あたしたち三人でおっさんじゃないのはリンだけね」
「アイツは別の生きもんだ」
「確かにね。でも残念、せっかく温泉に来たのに大浴場には入れないなんて」
「しょうがないだろ。だからって一緒に家族風呂入る訳には行かねぇし」
別に何度も見ているから目のやり場に困るとかそう言うのじゃないけど、密室の貸切風呂に戸籍上男が三人一緒に入るってのもなんかヤダ。
「というか、フロントの人ビックリしそうよね。最初に来た時は男だったのにお風呂から上がったら女になっているとか。確かそんな漫画あったわよね」
「逆だけどな」
確かにフロントの人はビビるかもしれない。風呂上りにイケメンが美女に変わっていたらお湯の効能をもう一度調べるかも、なんて。
三人で旅行に来て、一人だけ家族風呂に入っているリンは、後付けで両性具有者になった。経緯を知っている俺らならまだしも、全員に説明するのも大変だし。だって男風呂に美女が混じっていたら驚くだろ。
「あの子が誘ってくれたのに残念ねぇ。こんなに大絶景なのに」
「アイツにとって風呂はついでなんだろ。このあと飯食いに行くし」
「そうね。リンだけ呑めないのが残念だけど」
「運転手だから仕方ない。それにガソリン代は昨日しこたまやっただろ」
「あの子良いお酒ばっか飲むから」
昨夜はホワイトデーお返し飲み会をしていた。バレンタインにチョコをくれたミケのスタッフたちに酒を振る舞っていたのだが、リンもチョコをくれたとかで一緒になって呑んでいたのだ。アイツ、遠慮と言う文字をきっと知らないのだ。
「だからいーんだよ。言いだしっぺだし、運転手くらいしてもらわないと。まさか本当に温泉に連れて来られるとは思ってなかったし」
「本当に、あの子は自由だわ」
あれは深夜三時になろうとする前だろうか。そろそろお開きかなと思っていたら、リンが急に『そうだ、温泉へ行こう』とか言い出して。また今度な、とか返していたのだが、家に帰って寝ていたらまさかの鬼電で起こされて、なんやかんやあって今ココ。悪友三人、ゲイとバイとノーマルで日帰り温泉旅行。温泉と海の幸と高級車に運転手付き。まぁ、突然の旅行だとしても悪くない。
「たまには旅行とかいいな」
「そうね、今度は泊まりとかしたいわね。みんなで浴衣着て卓球勝負したり」
「あれって温泉地とかでするとなんでか盛り上がるよな。日常では絶対しないのに」
「分かる分かる。あと無駄に食べ歩いたりとかしちゃう。ご当地アイスとかダメだわ」
「あー絶対食べる。牧場のアイスとか、ゲテモノ系のアイスとか」
「分かる分かる、挑戦したくなるのよねぇ」
だよな、皆一緒だよな。明らかに甘いアイスと合わないだろってやつでもなんかノリで食べちゃうよな。だから高速インターとか大好き。って、それよりも。
「んで、最近どうよ」
真横にいるガタイのいい男を見上げて訊いてみる。ミケはこっちを見ずに前を見ているだけだ。
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