第43話 ブロックによる宿泊施設
「属性」解除した木のブロックを馬車に積めるだけ積み込むと、ニーナがパピルス? ぽい紙を手渡してきた。
中を見てみると、商品名が大量に羅列されていた。これは目録かな? 何で俺が紙に書いてある文字を読めるのかと不思議に思うかもしれない。自慢じゃないが、俺は日本語以外理解できないのだ。
そう、目録は日本語で書かれていたから読めたってわけさ。ははは。
「ニーナ、宿泊施設を作ろうと思ってるんだよ。今回の木材で準備できる分だけ適当に見繕ってくれないか?」
「へえ、りょうちゃん、何か面白いことするん?」
商売の臭いを目ざとく嗅ぎつけたニーナが目をすうっと細める。
いずれ話しをしようと思ってたし、先に彼女から意見をもらった方がいいかもな。
「えっとな、悪魔族と人間が商取引できる拠点を作ろうと思ってるんだ」
「へええ、りょうちゃんが悪魔族に説明するん?」
「そのつもりだよ。最初はニーナたちだけにでも顔を出してもらおうかなあと」
「うちは大歓迎やで! ほんまは他の商人を連れてきたくは無いんやけど……独占しても恨みを買うだけやしなあ……」
ニーナにとって悪魔族と人間の関係性はまるで考慮することではないらしい。彼女は安全に取引ができるのなら、誰でも大歓迎ってことか。
うん、分かりやすい。彼女のような行商人だったら悪魔族ともうまく付き合っていけるだろう。
「最初はニーナとガイアたちだけを呼ぼうと思う。悪魔族の方も少数で」
「うんうん、せやな。うまくいきそうやったら拡大するんやろ?」
「うん。その時、誰でも彼でも来られていざこざが起きるのはまずい。いや、ずっといざこざが起きないと思っては無いけど、最初は元からあったわだかまりを無くすことを念頭に置きたいんだよ」
「うちもそれがええと思うで。悪い事する奴は種族とか別で出てくるやろ。それは、りょうちゃんの作る取引所がにぎわってからやな」
「細かい打ち合わせは、次会った時にやりたいんだけど……」
「りょーかいや。次は泊れるくらいの勢いでいくさかい」
ニーナはにこおっと含みのある笑みを浮かべて、片手を上にあげた。
ん? 手をクイクイとされても何のことか。
「りょうちゃん」
「お、おう」
やっと理解した。俺はニーナとハイタッチをしてお互いの拳を打ち付けあう。
「楽しみやあ。悪魔族はどんなもんを持ってるんやろう。どんなもんが売れるんやろ」
根っからの商売人なんだなあ。一見すると年端もいかない少女なんだけど、俺の思うような年齢じゃないんだろうな。
エルフだし?
「ん? どうしたんや? りょうちゃん? うちに惚れた? あんな可愛い彼女がおんのにりょうちゃんも好きやなあ」
「い、いや……。ニーナと俺は同じくらいの歳なのかなあとふと思っただけだよ」
「ふうん、うちに興味あるん? そういうのはライちゃんがおらんときにな?」
つつつーと俺の胸に人差し指を這わせる仕草をして、ニーナはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。
思わず振り返ってライラの姿を確認するが、幸い彼女はガイアたちと談笑していて、こちらの声は聞こえていないようだった。
「と、ともかく、宿泊施設の件はよろしくな」
「もう、りょうちゃんのいけずー」
カラカラと笑い声をあげながらも、了承の意を示す。
◆◆◆
ポチにライラと一緒に騎乗して窪地外の切り株がある場所までやって来た。
まずは、この辺りに水場があるか調べてみるとしようか。
手分けして探すまでもなく、ライラがすぐそこに小川が流れていると教えてくれた。
「ライラ、この辺りにはよく来るの?」
「たまにですが……ちょうど切り株の辺りは開けてますので、危険なモンスターを見つけやすいんです」
ライラたち悪魔族は飛ぶことができるから、空に逃げれば回避できるしなあ。人間じゃそうはいかないけど……。
モンスターのことはすっかり頭から抜け落ちていたぜ。その辺も考慮しないと。
「よっし、じゃあまずは土台を作ってみるから意見があれば言って欲しい」
「はい!」
宿泊施設というより要塞とか街みたいになりそうな気がしてきたが、自重する必要は全くない。
見せてやろう。ブロックの力を!
建築予定地にある木を全てブロック化し、小川に隣接するように一辺が一キロになるようブロックを敷き詰める。
これが土台だ。そして……小川から水を引き込み中央へ池を作った。
ここまで僅か一時間。
「何度見てもすごいです! 良介さん」
「まだまだ、ここからだよ。安全を確保するためにもう一工夫」
お次は城壁を構築しよう。高さは……大きなブロック八個分くらいでいいか。
視界と日差しを確保するため、ここは水ブロックで作成する。
タブレットでちょいちょいと水ブロックを積み上げて決定を押すと、現実世界に水ブロックの城壁が出現した。
お、おおお。思った以上に綺麗で壮観だなこれは。俺の見たことあるものだと、水ブロックの壁はガラス張りに近いかな。
水ブロックからバッチリ外の景色を見渡すことができる。向こう側に立った人の顔もハッキリと確認できるほど透明感があるのだ。
あ、しまった。城壁ができたことに満足していて肝心なことを忘れていたじゃあないか。
「ライラ、入り口は一か所だけでいいかなあ?」
「最初はそれでいいかと思います」
馬車が通過できるサイズの入り口分、ブロックを取り除き基礎工事が完了した。
「あとは、入り口から走る大通り、中央に広場を作ろう。家を通りに並べるように作っていくかあ」
「そのことですが、良介さん」
「んん?」
「五軒くらいの家を建てて、残りは適宜、希望する人に聞きながらではどうでしょう?」
「その方がいいよな。どうせなら快適に使ってもらいたいし」
何より、家を一軒建てるのに十五分くらいしか時間がかからないから。といっても、家を建てたとしても解体して建て直すのもそんな手間じゃあないけどさ。
家を建て終わった後、あることに気が付く。
「ライラ、暑くない?」
「は、はい。それと……雨が降った後に水が流れるようにした方がよいと思います」
暑くなった原因はすぐに分かった。城壁のせいだよ。
城壁が全ての風を遮断してしまい、温室の中にいるようだ……。
水の通りについては、池を工夫すれば問題ないだろう。池が溢れてこないように、囲いは高めにとっておくか。
風通しは……お、いいことを思いついた!
俺は市松模様のようにブロックを取り除く。下から二段目までは危険生物がそのまま通過される可能性も考慮し空いた空間の中央へ小さなブロックを置くことにした。
こうすることで、風通しが良くなり危険なモンスターからの防衛にもなるってわけだ。
だったら……いっそのこと……。
天井部分も水ブロックを作ってしまうか! これなら飛竜も入ってこれなくなるし、雨も降りこまなくなるぞ!
「これでどうだろう? ライラ」
「天井部分なんですが、緊急時に空へ逃げることができるようどこかに穴を開けた方が」
そ、そうか。空を飛ぶって発想がまたしても抜け落ちていたぜ。
俺は天井の中央、四隅に穴を開ける。
「これでいいかな? ライラ」
「はい! 何か問題が出たらすぐに改装できますし、一旦はこれで様子を見てはいかがでしょうか?」
ライラのお墨付きももらえたし、エドを呼ぶとしますか!
◆◆◆
エドに宿泊施設ができたことを伝えると、すぐに彼はアッシュとフィアを連れてやって来てくれた。
屋根付きの巨大な宿泊施設を見た彼らは、ひっくり返りそうなくらい驚きを見せる。アッシュに至っては、壊れた時計のように「すげえ、すげえ」を連発していた……。
エドたちを中央広場へ招き、ベンチに腰かけてもらう。
そこへライラが昼食を持ってきてくれたのだった。
「賢者よ、あなたと私たちの取引にこれほど立派なものは必要なかったのでは?」
エドはパンに口もつけずに、周囲を見渡し肩を竦める。
「エドさん、人間の商人ともここで取引をできればって思ってるんです」
「正気か? 賢者よ。いくらあなたとは言え……、人間は危険に過ぎる」
やはり、ライラと同じ反応だよな。そうだよな。
「人間かあ。いいぜ、兄貴! 何かあれば俺がすぐに弓で!」
待て待て! なんで戦う前提なんだよお。
俺はライラへ目配せすると、彼女は頷きを返し悪魔族の三人の顔へ順に目を移していく。
彼女は真剣な顔で静かに語り始める。
「お父さん、みんな、人間のことなんだけど……私、人間と会ったの」
ライラの言葉に、三人は宿泊施設を見た時以上に驚愕している様子で目を見開くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます