第13話 ココヤシの木

 ココヤシの木のそばまで行ってみると、予想以上にココナツの実が成っている場所が高い! ざっと見たところ実の成っているところまでは、十五メートルほどあるんじゃないだろうか。

 ココヤシの木は木質が真っ直ぐに伸びて則枝が全くないので、足を引っかけて登ることは難しい。テレビだと、ロープを引っかけながら上へ登っていく様子を見たことはあるけど……あんなんいきなりやってできるとはとても思えない!

 

「良介さん、ココナツの実を採取しないんですか?」

「あ、いや、どうやって登ろうかなと」

「ブロックにしないんですか?」

「それは考えたんだけど、ブロックにしちゃうと木そのものをダメにしてしまうからさ……一度採ったら終わりになってしまうんだよ」

「なるほど。そういうことでしたら、私が採ってきますね」


 ライラはコウモリの翼をはためかせると、ふわりと浮き上がりココナツの実を両脇に抱えて戻ってくる。

 す、すっかり忘れてたよ……ライラは悪魔族だから飛べるんだった……。

 

「ライラ、ココナツの実は食べられるのかな?」


 さっきのバナナのことがあったから、ライラへ食用なのか事前に聞いてみることにした。

 

「はい。ココナツの実には甘い蜜が入っています。水と違ってすぐに腐らないですし、重宝しますよ」

「お、おお。よかった。さっそく食べてみないか?」

「はい!」


 ライラはソードブレイカーを腰から抜くと、ココナツの実に突き立てる。慣れた手つきでソードブレイカーをそのまま回転させると、ちょうどいい大きさの穴が開く。

 彼女からココナツの実を受け取った俺は、さっそく中のココナツジュースに口をつけた。

 お、おお。これなら飲めるな。一口飲んで口を離すと、ライラは自分の分のココナツの実に穴を開けようとせず、俺の様子を見守っているではないか。

 

「飲まないのかな?」

「あ、いえ。良介さんが飲み切れるならこちらのココナツの実に穴を開けようかと思いまして」


 この辺の意識を俺は見習わないといけないなあ。資源は有限なのだ。今収穫できる食材は無駄にしないよう大切にしなければ。

 ココナツの実に含まれるココナツジュースの量って確か一リットルくらいあると記憶している。確かに一気に飲み干すには量が多いな。この後、池も見るつもりだからココナツジュースが残った穴の開いた実は持て余すしなあ。

 捨てるのは厳禁!

 

「ライラ、先に飲んじゃって悪いけど、これを一緒に飲もう」

「はい!」


 俺はライラと交代でココナツジュースを飲み干し、池で中身をすすいでから縦に割り持ちやすく加工した。

 ココナツの実は繊維質でてきているから、うまく紐に出来なかったとしても藁のかわりに使えば寝床にすることだってできる。更に、葉は服にだってすることができるし乾燥させて絨毯みたいに使うのもいい。

 ココヤシは利用できる箇所が多く重宝するぜ。油だって採取することができるんだからな。

 

「ライラ、後で蔦かココナツの繊維を編んで籠か袋を作ろう」

「はい。無いと不便ですよね。持ち運びができませんし……私の手持ちだけですと小さいですから……」

「今日のところは、この辺に生えている蔦を使ってココナツの実を括って持って帰ろう」

 

 ココナツの実は後からもう少しライラに採ってもらうことにして、池の確認をしようではないか。

 

 池は滝が流れ落ちる箇所がおそらく一番深い場所で、断崖絶壁を背にして俺が立っている岸部までだいたい百メートルってところか。

 深さは……滝があるため見た目だけじゃあまるで分らん。泳いでみたら分かるけど……ライラの前で素っ裸になるわけにもいかないしなあ。かといって服のまま潜っても着替えがない。


「どうされました?」


 立ったまま動かない俺へライラが心配そうな声をかけてくる。

 

「いや、魚がいるかどうかを見ようと思っていたんだけど」

「私が見てきましょうか?」

「分かるの?」

「はい。ですが、意外です」


 ん? 俺は人間だからライラのように飛んで上から確認することなんかできないぞ。

 って、何しているんだ! ライラ!

 

「ライラ、何でスカートに手をかけてるの?」

「着替えを持ってませんから……」

「い、いや、そういうことじゃなくてだな、泳ぐつもりだったの?」

「はい。潜ってみないと分からないじゃないですか」

「意外って……俺が泳げないと思ったのかな」

「……は、はい。そうです……良介さんにも出来ないことがあるんだなあと」


 ち、違う。そうじゃないって!

 俺は全然構わないというか、むしろご褒美なんだけど俺の前ですっぽんぽんになっても構わないってことなのか?

 それとも、ライラの村では男の前でも水浴びだと男女共に裸になるのだろうか……。

 

「だからあ! 服を戻して、服を!」

「それだと泳げませんが、いいのですか?」

「明日にでもポチとここに来るから大丈夫だよ」

「それでしたら、今私が確認しますが……」


 きょとんと首をかしげるライラである。

 こ、ここはハッキリと聞いておくべきだよな。習慣の違いってやつを。

 

「ライラ、君は俺の前で服を脱いで恥ずかしくないの?」

「……」


 俺の言葉を聞いた途端、急に耳まで真っ赤になるライラ。

 あれ? 予想外の反応が返ってきたんだけど……。

 

「……正直に申し上げますと、少しだけ恥ずかしいです……」

「無理しなくていいって言ったじゃないか」


 ライラの頭をポンポンと撫でると、彼女は「えへへ」と口元に笑みを浮かべた。

 うん、無表情よりそっちの方が断然良い!

 

「良介さん、私はあなたのお役に立てることならやりたかったんです」

「ライラがいなければ野営さえままならかったと思うくらいに君は貢献しているよ。何かお礼をしたいところだけど、あいにく何もないからなあ……」


 俺はここに転移してきて何故か持っていたブロック化の能力以外何もないからな……それに比べてライラの野営知識は素晴らしい。

 

 ライラの頭から手を離し、池から背を向ける。今日のところは池を諦めよう。

 しかし、このままでは帰らないぞお。

 

 池の周りを散策しいると、池からノソノソと木へ向かっている青みがかった甲羅を持つヤシガニを発見した。

 ヤシガニのサイズは地球のものと余り変わらないみたいで、足を広げた時のサイズはおよそ八十センチと言ったところか。

 ヤシガニはヤドカリの仲間なんだけど、巨大な図体をしているからか他のヤドカリと違って貝殻を背負っていない。

 見た目そのものは殻を外したヤドカリと違わないんだけど、大きいから見た目が結構グロテスクだ……。

 

「これは食べられるのかな? ライラ?」

「はい。今のうちに捕まえますね」


 ライラはそう言うと、一息に距離を詰めソードブレイカーをヤシガニの甲羅に突き立てた。

 ソードブレイカーは見事ヤシガニを貫通して無事捕獲が完了する。

 おっとりした大人しい雰囲気のライラだけど、狩猟となるとワイルドだ……この辺の文化の違いは何度見ても驚かされる。

 

 この後、ココヤシの葉も採取してココヤシの実、ヤシガニと共に家まで持ち帰ったのだった。

 

 ◆◆◆

 

 ヤシガニをあぶって塩をかけ昼食にする。半分はポチと食いしん坊のカラスへ残しておこう。そのうちお腹を空かして帰ってくるだろうから……。

 彼らを待っている間、俺はライラの手ほどきを受けてココヤシの葉の編み方を教えてもらう。作り始めると案外形にはなってきて、葉っぱでできたカバンが出来上がった。

 い、いや、これはカバンというのもおこがましい……。物が入る何かだが、ズダ袋やカバンってもんじゃねえ。

 微妙な気分で隣を見ると、ライラがヤシの実の殻をほつれさせて糸状にしていた。

 

「それを乾燥させるのかな?」

「はい。これくらいの量でしたら魔法ですぐに」


 ライラは何かボソリと呟くと、糸状になった殻へ手を当てる。

 見た感じ何が起こったのか分からなかったけど、これで乾燥が完了したのかな?

 

「これで、すぐに編むことができますよ」

「お、おお」

「任せてください! 私はこれでも籠を編むことは得意なんです!」


 えへんと胸を張るライラへ拍手を送ると、彼女は頬を少しだけ朱に染め、誤魔化すように殻の糸を編み始めた。

 これは見た目だけだと、藁と変わらないなあ。

 これで麦わら帽子なんて作ってライラが被ったら似合うだろうなあ……なんて考えながらライラの手元を見ているとみるみるうちに籠の形になっていくじゃあないか。

 手つきが良すぎるだろ! 

 

 お、俺も負けずに葉っぱを編みこんでやるのだ。次は葉っぱのカーペットを……。

 クワッと目を見開き気合を入れると、葉っぱを鷲掴みにする俺なのであった。

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