第69話 リアの使命
夜の11時くらいだったがサンチョ・パンサの客は多かった。
売り場にはなかったがバックヤードに置いてあったビニールプールと空気入れを無事に手に入れることが出来たぞ。
これで吉岡に頼めばいつでもお風呂に入れるな。
水はプールの底から抜けるタイプなのでビニールホースでバルコニーの排水溝へ流すことにした。
他にもお菓子や下着なんかも買いそろえていく。
この店は場所柄か化粧品やスキンケア用品が充実のラインナップで、キャバ嬢らしきお姉さん達が何人か売り場にいた。
ブレンドされた香水の匂いがかなりキツイ。
「こういうものを店に置くのもいいですよね」
「あっ!」
吉岡に言われて思わず大きな声を上げてしまう。
俺は大切なことを忘れていたのだ。
「どうしたんですか突然?」
すっかり失念していたがこちらの医薬品はあちらの世界でやたらとよく効くのだ。
リアに傷薬を塗ってやった時などすぐに治療が完了していたもんな。
その後、吉岡の回復魔法にばかり頼っていたから忘れていたが、美容液とかを向こうの人が塗ったらとんでもないことになる可能性がある。
「吉岡……エステだ……」
「はい?」
「エステでボッタくるんだよ!」
吉岡に日本の薬が異世界でどれくらいの効果があるかを説明した。
「なるほど、大儲けの匂いがしますね」
「ああ。確実に売れると思う。だけどやっぱり輸送量の問題が出てくるだろう」
というわけで、店側が施術という形で美容液などを塗ってやる形態にすれば一本の化粧品を複数の人に向けて使えると考えたのだ。
例えば1セット1万円で30日分の基礎化粧品があるとする。
つまり1セットで30回使えるわけだ。
1回の料金を5000マルケスとったとして30×5000で15万マルケスになる。
値段はどの程度肌が綺麗になるか、それがどれくらい持続するかによって変わってくるだろう。
クララ様やフィーネにつけてもらって様子を見てみるか。
「問題はスタッフですね。エマさんとかに紹介してもらえたらいいんですけど」
「ハンス君はお姉さんがいると言ってたぞ。どこかで女中さんをしているらしいから引き抜きもありだな」
とりあえず今回はクララ様やフィーネへのお土産を含めて何種類何かの化粧品を買ってみた。
喜んでくれるといいな。
両手に化粧品で膨れ上がった手提げ袋を提げている俺たちは爆買いの外国人みたいだった。
最近少なくなったみたいだけどね。
「吉岡、そろそろ時間だぞ」
「了解です。人気のないところへ移動しましょう」
いつ召喚されてもいいように南口のバスターミナルへむかう。
この時間ならこの辺りに人影は少ない。
セットしておいたアラームが振動して俺たちは狭間の小部屋へと飛ばされた。
狭間の小部屋につくと、そこにはイケメンさんが待っていた。
思わず心臓を掴まれたようにびっくりしてしまう。
「セラフェイム様!」
相変わらず穏やかな表情なのに纏っているオーラが凄まじい。
「今日はお話があってきました。少々時間を頂きます」
もしかしてスキンケアグッズを買ったのがまずかったか!?
「すいませんでした! もちこんだ荷物は全て処分します!!」
俺たちは45度の最敬礼で頭を下げた。
額で釘が打てる勢いだ。
「いえ、そんなことはどうでもよろしいです。副作用などはないので大いに使えばいいでしょう」
あれ、そうなんですか?
じゃあ遠慮なく……。
だったら、お話って何でしょう?
「日野春さん、貴方はリアに手紙を出しましたね?」
「はい。王都に来てくれないかと頼んだのですが、なにか問題がありましたでしょうか?」
やばい、余計なことをしてしまったか?
イケメンさんはじっと何かを考えているようだ。
「日野春さんは間違って召喚されたという話を憶えていらっしゃいますか?」
もちろん憶えている。
本当はフェニックスが召喚される予定だったはずだ。
「ええ。召喚された際にギフトを頂いてしまったので、そのまま私が召喚獣になったんですよね。それとリアがどう関係するんですか?」
「実はですね、リアはフェニックスの召喚士として勇者のパーティーの一員になる使命を持った少女です。来るべきその日まで力を蓄えるべく、ラガス迷宮でフェニックスと共に修行する予定だったのです」
リアにはそんな使命があったのか!?
そうなると少し困ったことになるんじゃないか?
本来は召喚獣と共にラガス迷宮を攻略するはずだったのに、リアは今も一人で迷宮に入っているはずだ。
「私は……リアの召喚獣として働くべきなのでしょうか?」
イケメンさんは静かに微笑んだままだ。
「今のままで構いませんよ。貴方には私から経典と新聞についてのお願いをしてあるはずです。そちらの方を頑張ってください。リアの新しい召喚獣については新たに選定中です」
ということはこのままクララ様の召喚獣としてやっていけるわけだ。
だけどリアを王都に呼び出して大丈夫かな?
ラガス迷宮で冒険者としての実力を付けなければならないだろうに。
イケメンさんは俺の心を読んで答えてくれる。
「それもまあいいかと考えています。ただ、現段階で召喚獣を得られていないリアの成長に遅れが生じています。どこかで取り返さなければなりません」
「私で出来ることなら協力は惜しみません」
「そう言っていただけると思いました。日野春さんと吉岡さんだけではなく、アンスバッハさんにも頼みます。リアの成長を助けてやってください」
クララ様にも伝言すればいいわけね。
でもどうやって助ければいいんだろう?
武術の稽古でもつければいいのかな。
「リアの修行についてはこちらでも考えておきます。時が来れば改めてあなた方に協力をお願いするでしょう」
イケメンさんは残光を残して消えてしまった。
セラフェイム様に言われなくてもリアたち姉弟には力を貸すつもりだったから何の異存もない。
でも、リアは勇者のパーティーに入って何をするんだろう?
大切なことを聞きそびれてしまったな。
物語やゲームならラスボス的なものを倒すのが目的になるんだけど、魔王とかそういう存在は聞いたことがないぞ。
「セラフェイム様も時が来れば改めてお願いに来ると言ってたじゃないですか。その時にでも聞いてみましょう」
そうだな。
手紙は出したばっかりだし、到着には一月以上かかるはずだ。
そこから準備して王都にリアたちがやって来るまで更に1か月以上か、まだまだだいぶ先だ。
……迎えに行こうかな?
川の通行権があれば「水上歩行」とバイクの組み合わせでかなりスムーズに移動できるはずだ。
「水上歩行」なら普通の道よりも凹凸が少なくて走行しやすいんだよね。
「さあ先輩、とにかくスキルカードを引いちゃいましょう」
それもそうだ。
今後のことはもう少しよく考えてから決めていこう。
「今日もいいのをお願いします」
いつも通りカードダスに手を合わせてからダイヤルを回した。
スキル名 ダミー
自分そっくりの分身体を作り出せる。
単純な動きや100文字までの言葉を繰り返し喋らせることも出来る。
制作者が意識すれば消すことが出来る他、強い衝撃を受けたり、作成から10時間が経過すると自動で消えてしまう。
1回に作り出せるのは1体まで。
スキルレベルが上がれば数は増える。
なかなか面白いスキルだ。
試しに棒を持った状態で「ダミー」を発動したら、ダミー人形もちゃんと棒を装備した状態で作成された。
「分身の術!? いいなぁそれ!!」
吉岡のテンションも上がっている。
説明にあった通り複雑な動きはできないけど敵に対して突きをいれるくらいはできるようだ。
もっとも突きが当たればその衝撃でダミーは消えてしまうし、避けられた場合はそのままどんどん前進するだけのポンコツロボットのようになってしまう。
でも充分目くらましにはなるし、単純労働とかもさせられる気がする。
なかなか便利そうだ。
「棒術」「ひきよせ」「ヤモリの手」そしてこの「ダミー」を組み合わせれば新たな戦闘術を開眼できそうな気がするな。
クララ様に頼んで修行に付き合ってもらうとしよう。
あの人は修業が大好きだから喜んで相手をしてくれるんだよな。
俺がスキルで強化されるにつれて本気が出せるようになってきて嬉しいそうだ。
修行なら二人っきりでいても関係を疑われることもないしね。
でも手加減だけは忘れないで欲しい。
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