ホワイトデー

Re:over

ホワイトデー


 今日はホワイトデー。丁度1ヶ月前、彼氏のユウに手作りチョコを渡してやった。だから、今日はそのお返しをどこか期待しながらデートしている。


 しかし、特に変わった様子も無く映画を見て、喫茶店で軽食を食べ、カラオケに行って歌いまくって......気がつけば帰らなければいけない時間になっていた。


 なるほど、最後にサプライズってことか。ユウもなかなかわかってんじゃん。なんて、勝手にサプライズがあると思い込んでいた。


「それじゃあ、また明日ね」


「う、うん......?」


 期待は泡となって弾け、消えていった。まさか、忘れてるのかな?


「あ、ちょっと待って。その......今日ホワイトデーじゃん?」


 自分から言うのは卑怯かもしれないが、彼の忘れっぽい性格を考えると、準備はしたものの、渡すのを忘れてたというオチにならないため。そう、確認のためだ。決して強要してるわけではない。別に、準備してないなら、いいのだ。


「あ、そういえば、今日ホワイトデーだったね! 忘れてた、ごめん!」


 彼は手を合わせて謝った。しかし、こうも素直だと、非の打ち所がない。


「まぁいいよ。私、別に、見返りとか求めてバレンタインあげたわけじゃないし」


 クッソー! 欲しかった。彼からのお返しを!


「なんて、嘘だよ。今日ホワイトデーだってこと、忘れてないよ。はい、これ」


「え、ほんとに? あ、ありが......うわぁっ!」


 彼の手に持っている物が街灯に照らされて、正体を現すと同時に、私は驚いてしまった。


 黒くて、6本足の『やつ』だ!


 触覚も兼ね備え、足には毛のようなものが生えていて、気持ち悪い。


「ちょ、ちょっと、何でゴキブリ⁉︎」


「はいっ」


「きゃっ!」


 何を思ったのか、その汚らわしい生物を私に投げつけてきた。私は、とっさに振り払ったが、私の顔ににベッタリと引っ付く。


 その、感触の異常さに、少しばかりの冷静を取り戻す。そして、その生物を掴んで、調べてみると、やはり、偽物であった。


「ちょっと、驚いたでしょ!」


「んで、これも」


 また、同じように手を差し出された。手に乗っていた物は......。


「も、もしかして手作り⁉︎」


「もちろん!」


「ありがとうー!」


 まさか手作りをくれるなんて想像もしていなかったから、その喜びようは異常だったと思う。感動しすぎて泣いていた。


 さっき驚いた時の恥ずかしさも、時間が経つたびに強度を増し、私の頬を真っ赤に染め上げる。


 最初のゴキブリは何なんだよ! と、心の中で叫びながら、その嬉しさを噛み締めた。

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ホワイトデー Re:over @syunnya

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