わたしがものをかくわけ

わたなべ りえ

序 通信簿

序・通信簿 1

 親の家を掃除していたら、私の小学校時代の通信簿が出てきた。



 自分から進んでやろうとする気がありません。作業を始めると、いつまでもそれにかかり切っております。無口でお友達ともあまり遊びたがりません。

 本が好きで好きで、学級の係も本係になり、真面目に良くやっております。勉強中、他のことを考えているのでしょうか、名前を呼ばれて、びっくりすることがよくあります。私の話がしっかり聞けるようになってほしいと思います。

 学習に興味を示しません。全般的に仕事が鈍いので、学習はなかなか進みません。もっと手早くなってほしいものです。



「今時、こんなことを書いたら、モンスターペアレントが黙っていない。社会問題だよなぁ、怖いなぁ、昔の先生」

 教職にある兄が笑う。


「でも、小学校の頃から、変わっていないんだ、すごいなぁ……」

 と、旦那も笑う。


 私ときたら、優しかった先生を思い出し、そんなことを思われていたのかぁ……と、ちょっと汗をかいた。


 とはいえ、思い当たる節がある。



 子供の頃、私は異世界の住人だった。

 私はまだ小さくて、この世界のことはよくわからなくて、よくわからないことで怒られたりして、いつも戸惑っていたように思う。

 お小言を言われるのは嫌だから、お仕置きで入れられるはずの押し入れに自ら入り、電気スタンドを持ち込んで、ずっと本を読んでいた。

 本は、いろいろな本ではなく、お気に入りを何回も読んだ。暗記するくらい読んだ。

 そして、すっかり異世界に入りこみ、英雄にでも、お姫様にでも、魔法使いのでも、自由になって、世界を遊び尽くしていた。

 毎日、毎日が、異世界構築に忙しい。

 寝ても覚めても、さて、次は何をしようか? と考えを巡らしていたのだから、この世界で話しかけられてもうわの空。

 ノートは落書き帳、いや、教科書ですら、もう本文が読めないほど、お姫様の絵で埋め尽くされていた。


 大人から見れば、いつもぼーっと考え事をしていて、よくわからない子供だったに違いない。

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