泡沫の夢

26

第1話 大雨

そのときの私は、中学生だった。

台風で天候が荒れる九月のある日、ベッドが一床あき、入院することができるとの連絡をうけ、車で一時間はかかる病院へ母親に連れられてやってきた。到着する直前には雨が強くなり、着いたころには病院近くの溝の水が、道路にあふれんばかりに増していた。


病院につくと、意外なことか看護師と医師以外の人が誰一人といなかった。病院内にある体育館で授業をしているんだよ、と担当看護師である二十代くらいの若い看護師に教えてもらった。

矢野と名乗るその看護師に連れられ、その病棟を案内された。


児童閉鎖病棟。

文字通り、精神疾患や、発達障碍をもった子どもだけの世界。

入院しているのはだいたい小学三年生から中学三年生までの男女約40名。

大部屋もあるが個室の方が多く、言われた通り、私が入った部屋以外にベッドの空きはどこにもなかった。

私が入ることになった二人部屋は、ピンクベージュが基盤になった、清潔で明るい場所だった。

病室の外に出れば、院内学級や中庭、自習室や大浴場もあり、大量の漫画に卓球台、据え置き型のゲームハードも設置されていた。

その充実っぷりに、私はまるで病院ではなく、大きい学童施設ではないかと思うほど、そこは快適な場所だった。


私は、こんな場所にいていいのだろうか。

つい昨日まで、何度も死のうとして腕に傷を作って、薬を飲んで、それでも生きるのがやっとだった私が、こんな明るい場所にいる権利なんてあるのだろうか。



自分の家や学校が明るすぎて苦痛だった私が逃げた場所。

その病院が明るいから、不安になった。


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