第31話・月明かりの下の出会い
ダークドラゴンへと変貌したライゼリアさんとユキの戦いが決着したあと、俺達はライゼリアさん自らがその体内から取り出した『赤く輝く結晶』を回収し、今回の件の報告する為にそのままモンスタースレイヤー協会へと向かい始めた。
しかし今回の件をモンスタースレイヤー協会や他の人達に信じてもらうのは、かなり苦労するだろう。なにせ人間がカラーモンスターに変貌するなんて、これまでの歴史上で聞いた事も無いからだ。
きっとモンスタースレイヤー協会では色々な事を問われるだろう。そしてその時の一番の問題は、どうやってライゼリアさんがカラーモンスターになった事を証明するかだ。
正直に言って、ライゼリアさんがカラーモンスターへと変貌した証拠など何も無い。できればライゼリアさんを生きたまま捕らえ、本人にその事を話してもらうのがベストだったんだけど、ユキの魔法によってこの世から完全に消え去ってしまった以上はそれもできない。
しかし、仮にライゼリアさんを生かして捕らえる事ができたとしても、本人がその事について素直に話してくれたとは思えないから、どちらにしても俺達にとって証明をするというのは難しかっただろう。
今回の事は下手をすれば、俺達が人間であるライゼリアさんを殺害した――なんて事にもなり兼ねないけど、こちらにはライゼリアさんが体内から取り出した赤く輝く謎の結晶がある。だからどうにかこれを切り札にして今回の件を乗り切りたいと考えている。
そんな事を思いながら街まで戻り、俺達はモンスタースレイヤー協会で今回の件についての報告を行った。そして予想どおりに協会側も俺達の話に最初は驚きを隠せず、どこか疑わしいと言った感じだったが、切り札として俺達の持ち帰った謎の赤い結晶を協会のお偉いさんが見ると態度を一変し、俺達の言葉を全面的に信じてくれた。
俺としてはその変わり様が妙に思えてしょうがなかったけど、今は変な疑いをかけられるよりはマシだと思ってその疑念を飲み込んだ。
そして俺達が話を終わらせて協会から出て来る頃には空も白み始めていて、それが長い1日が終わった事を俺達に教えてくれていた。
× × × ×
ユキとライゼリアさんの戦いが終わってから1週間後の深夜。俺は独りであの戦いが行われた場所へと来ていた。
俺は再びモンスタースレイヤーになる為の修行を重ねるべく、ティアとユキと一緒に明日のお昼過ぎにこの街を出て行く。
だからその前にもう一度この場所を見ておきたかった。俺の目指す目標であるモンスタースレイヤー、ティアとユキがダークドラゴンと戦いを繰り広げたこの場所を。
月の光に照らされる大地の一部には、激しい戦いの爪痕が今も残っている。そしてその爪痕の数々を見る度に、俺は自分の無力で心が折れそうになってしまう。
俺にはまだ、ダークドラゴンと対等に戦えるだけの実力は無い。だから今回も、結果としてティアとユキに助けられた。それは俺に実力が備わってないから仕方ない事ではあるけど、やはり悔しい気持ちは隠しきれない。
――俺ももっと頑張らないとな。
「ねえ。あれを知らない?」
色々な事を考えながら月明かりに照らされる戦場跡を見つめていると、唐突に後ろから女の子の声が聞こえてきた。
突然の事に驚いた俺が声のした方へ振り向くと、そこには優しく吹く風に肩まで伸びる金髪を
その少女は一見するとティアやユキよりも幼く見えたが、その表情には特定の感情が見えず、どこか近付き難いものがあった。
「ねえ。あれを知らない?」
どうしてこんな少女がこんな時間にこんな所へ――と思っていると、その少女はまた同じ質問をしてきた。
「あれって何かな? 何か探し物でもしてるの?」
俺の問い掛けに対し、その少女は小さく一度だけコクンと頷いた。
とりあえずこの少女の事が気になった俺は、話を聞く為に少女の方へと歩み寄り、視線を合わせる為に腰を落とした。そんな俺の行動に対し、その少女は何の反応も見せない。
本当なら見知らぬ男が近付いて来れば警戒するものだろうけど、この少女はそんな素振りすらも見せなかった。
「俺の名前はエリオスって言うんだ。君のお名前は?」
「レムリア」
「レムリアちゃんか。こんな所で何かを探してたの?」
「ブラッディハート」
「ブラッディハート?」
俺の聞き返しに対し、少女はまた小さく一度だけコクンと頷いた。
「どうしてそのブラッディハートってのを探してるの?」
「分からない。でも、そうしなきゃいけないって事だけは覚えてる」
よく分からない事を言う少女に対し、俺はしばらく質問を続けた。
そしてその結果、俺はこの少女が断片的に記憶を失っている事に気付いた。
「とりあえずそのブラッディハートってのが何かは分からないけど、こんな所を探しても見つからないと思うよ?」
「そうなの?」
「うん。それにこんな時間に君みたいな幼い子が外をウロウロしてたら危ないよ。だから一緒に街へ戻ろう?」
「街へ行ってもレムには行く所が無い」
「それなら今日は、俺の泊まってる宿屋のベッドを使わせてあげるからさ。だから一緒に戻ろう? ねっ?」
「……分かった」
少女は相変わらずの感情を感じさせない表情でそう言うと、おもむろに俺の手を握ってきた。その行動自体はいかにも子供らしいんだけど、あまりに素直過ぎてちょっと危ない気もする。
「あれっ? レムリアちゃん。手を怪我してるじゃないか」
「本当だ」
「ちょっと見せてごらん」
俺はレムリアちゃんの手を軽く引き寄せ、怪我をしている甲の部分を見た。すると傷は深くないみたいだけど、そこにはじんわりと赤い血が滲んでいた。
それを見た俺はとりあえず持っていた水で患部を優しく洗い、綺麗な布で軽く拭いてから包帯を巻いた。これくらいの傷で包帯までするのは大げさかもしれないけど、せっかく綺麗にした傷をそのままにしておくよりはいいだろう。
「うん。これでよし。それじゃあ行こっか」
「……優しい」
簡単な治療を終えて立ち上がると、レムリアちゃんはそう言ってまた俺の手を握ってきた。しかも今度は、さっきよりも手を握る力が強くなっている。
チラリと見たレムリアちゃんの表情は相変わらず感情を感じさせないけど、俺は特にそれを気にはしなかった。孤児院で色々な人達を見て育った俺にとっては、レムリアちゃんみたいな子が特別珍しいわけでもなかったからだ。
こうして俺は記憶喪失になっている少女レムリアちゃんを連れ、街の宿屋へと戻った。
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