少し怖い話『天井の人』
両目洞窟人間
天井の人
私の家には天井に住んでいる人がいる。といっても私の家のいわゆる屋根裏に住んでいるとかそういう意味ではなく、実際に天井に住んでいるのだ。
私がそれに気がついたのはこのワンルームに引っ越してから3ヶ月目のことで、仕事から帰ってきて疲れ果てベッドに寝転びながら、ふと天井を眺めていたら、半透明の逆さまの人影がゆらゆらと天井をさまよっていた。
引っ越したワンルームの天井は結構高めで、その高さゆえの開放感が私は好きだったのだけども、まさか妙な人影が歩き回るとは思わなかった。
その人影は天井をまるで「床」のようにして、天井をいったりきたりしていた。
私はその異様な光景にぎょっとして、おびえもしたが、その人影が何をするでもなく、ゆらゆらしているだけであったので、しばらくはそれをじっと見ていた。
するとその人影は電灯を切ったように、ばちんと消えていなくなった。
しばらく天井を見ていたがその日は人影は現れなかった。
それから人影は不定期に現れるようになった。
突然現れては何をするでもなくゆらゆらと天井を歩くのだ。
ぎょっとしていた私も、奇妙な同居人が出来たような気持ちにだんだんなって、人影が現れた時はちょっとほっとした気分にもなったものだ。
人影は天井をゆらゆらと歩き回るのはたいてい1時間にも満たなかった。
現れて、しばらく歩いて、ばちんと消える。
その繰り返しだった。
私に危害を加えるわけでもない。ただ歩くだけ。
人影が現れてから半年が経った。その日、また突然人影が天井に現れた。私は仕事から帰ってきて、ご飯を食べている最中だった。
現れても「またか」と思って、特に気にはとめていなかった。
しかし、ふとその人影を見ているとあることに気がついた。
足が天井から浮いていた。
前は天井に足をぴったりつけて、うろうろしていたのに。
その日も人影は天井をゆらゆらとしていた。ただ、足は天井につけずに。
それから徐々に人影は天井から離れ続けている。徐々に徐々に。
不思議な言い方になるが、人影は天井から浮いて本来の「床」に向かっている。徐々に近づいている。
天井からはすっかり浮いてしまって、空の部分を逆さまの人影がゆらゆらとさまよっている。
そして私はもう少しすると逆さまの人影の「顔」と向き合うことになるだろう。
人影が天井にいるときは気がつかなかったんだけども、どうやらあの人影は口をぱくぱくさせているようだった。
まるで苦しそうに。
私はあの人影と正面から見合わせる前に、この部屋から引っ越そうかと思っている。
駅からも近いし、コンビニも近いし、本当に便利だけども。
何かあってからはまずいのだ。
少し怖い話『天井の人』 両目洞窟人間 @gachahori
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