どてらねこのまち子さん

両目洞窟人間

第1話 「SAVE THE CHILDREN」

どてらを着た二本足でとことこ歩くねこの後ろ姿が見えたので「おーい、まち子さん」と話しかけたら、どてらねこのまち子さんは振り向いて「あら、竹本さんじゃないですか」と言う。私の名前は岸本だ。竹本ではない。「まち子さん。私の名前は岸本です」

「そうでした。岸本さん。こんにちは」

とまち子さんはお辞儀をしたので私もお辞儀をした。

どてらねこのまち子さんはスーパーの袋を下げている。

「まち子さん。スーパー帰りですか」

「はい、暴力空間から今日も帰ってこれました」

「暴力空間ですか?」

「動物の死体や内蔵があちらこちらですよ」

「スーパーですからね」

「暴力空間です」

「まち子さんは今日は何を買ったのですか?」

「死んだ鮭の肉片です」

「サーモンの切り身なんですね」

「あとはサーモンの子どもたちを買いました」

「いくらですね」

「コンテナに詰め込まれた子どもたちです」

とまち子さんは袋から取り出す。

すると袋の中から、半透明のコンテナが出てきて、その中にはぎっしりいくらが詰まっている。そのいくらは蠢いていて「きゅるるるるるる」と叫び声をあげている。

「見てられなかったので・・・」とまち子さんは言う。まち子さんは優しいのだ。

「まち子さん、その子どもたちをどうするんですか?」

「川に放流してあげます」

そういったので私たちはとことこと川に向かう。



どてらを着たねこのまち子さんと私は流れる川を見ている。

昨日の雨で川は流れが強い。

「まち子さん、流れが強いですね」

「うにゃにゃにゃにゃ・・・」

とまち子さんは子どもたちを流そうか、どうか困っている。

まち子さんは半透明のコンテナを見つめる。

子どもたちは「ぎゅぎゅぎゅぎゅ」と叫んでいる。どうやら自然に帰りたいのだ。

まち子さんは意を決して、コンテナの鍵を開ける。

「ぴゅいぴゅいぴゅいぴゅい」子どもたちが歓喜の声をあげる。

「さあ、自然で生きるのです、子どもたち。帰るのです。自然に」

川に子どもたちが放流される。

子どもたちの喜びの声が聞こえる。

まち子さんと私も笑顔になる。

子どもたちは強い川の流れに乗って下っていって私たちから50メートルくらい離れたところでクロコダイルに食べられて全滅した。


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