第5話 異世界の驚異

 異世界の驚異、それはおだんご。


 キャベツよりも甘くて、花の蜜よりどっしりとして。

 お皿に盛ればふっくらつやつや、

 口に入れればもっちりふにふに、

 優しい甘さが口の中いっぱいに広がって。


 んー、幸せ。


「おいしいですねぇ、お姉さま」

 ほっぺたいっぱい詰め込んで、カナリアもごきげん。


 草の香りのよもぎだんご、

 華麗にしとやかな桜だんご、

 たっぷりの餡をのせた餡だんごに、

 黄金のタレを絡めたみたらしだんご。


 こんなにも美味しいものが存在するなんて、

 異世界ってなんて素晴らしいのかしら!


(え? 元の世界にもある? 知らないわ、私モンシロチョウだもの)


「あ、ミッチー君」


 気がつくと斜め向かいの席に、金の髪、青い瞳の男の子。

 綺麗なほっぺたを膨らませて、無表情にもひゅもひゅ。


「どう? おいしい?」

「…………」


 もひゅもひゅもひゅ。

 無反応だけど夢中で食べてるから、きっと美味しいのね。


 川沿いの廃村で出会って以降、私たちがおだんごを食べていると、こうしてどこからともなく現れるようになったの。

 ほら、私が花の蜜を吸っていると、いつの間にかとなりにいて蜜を採ってたりするじゃない? ミツバチって。

 だからミッチー。


「魔力とかは感じないんですけどね。よりによって名前が『クロス』なんて」

「そんなにめずらしい名前じゃないのよね?」

「はい。カナリアは気にしません」


 次のおだんごで会いましょうね、ミッチー君。



 村はずれの小道にはやさしい春の風が吹いて、

 ふんわり土と草とお日さまの匂い、


「不思議ですね」


 岩のようなカナリアの手は硬くて冷たいけれど、

 私の手のひらをきゅっとつかまえて、


「カナリアは姿が変わってしまって、お姉さまは中身が違ってしまいましたけど、

またこうして一緒に歩けて、カナリアはうれしいです」


 お日さまが全身を包んでほかほか、ぽかぽか、

 そうねカナリア、私も嬉しいわ。

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