第82話 遺恨の将

アズキは、戦場を動き回り、探し回っていた人物をやっと見つけた。師団長が単独行動など言語道断なのだが、その辺は副官のルサスがフォローしていた。この優秀な副官は、付き合いは短いが、おてんば将軍の扱いに慣れてきたようだ。


「フルーブル王! むかつくので斬る!」

フルーブル王は、元家臣である黄色い髪の女将軍を見て体が固まる。それは途轍もない恐怖であった。息子であるビヘイカを半殺しにされたので、さすがに処分したのだが、その武勇はよく知っている。斬りかかられたら助からないのは理解できた。

「あ・・・き・・斬れ・・あの者を斬るのだ!」

フルーブル王はそう言うのが精一杯であった。周りの部下も、アズキのことはよく知っており、その気に押されて、動きが鈍い。


近衛隊長が、かろうじて、王にこう声をかける。

「フルーブル王、ここは任せて、お逃げください」

相手は赤い戦女である。命を捨てる覚悟で、そう発言した。

王は家臣のそんな気遣いも興味ないのか、すぐに言葉に従って逃げ始める。それをアズキが追おうとするが、近衛隊が立ちふさがる。


右上から左下に剣を降り下げ、三人を斬り伏せ、左下から右上に剣を振り上げて二人を斬り伏せる。二つの動作で五人を斬ると、横一線に剣を凪いで、さらに三人を斬る。最小限の動きで、立ちはだかる近衛隊を斬り伏せていくと、すぐ目の前にフルーブル王の姿を捉える。


さすがにここまでかと思われた時、横から千騎はいる騎兵隊が王を守る為に突撃してきた。王を斬るのを邪魔されて、アズキはブチ切れる。一人で騎兵隊に襲いかかった。


ロギマス時代のアズキの事を知っている、その騎兵隊隊長は、目の前で暴れまわるアズキを見て、こう呟いた。

「アズキ将軍は、ここまで強かったのか・・」

すでに百近い騎兵が馬ごと斬り伏せられていた。実はロギマス時代より、アズキの戦闘能力は上昇していた。それはアズキ自身が成長しているのもあるが、裕太のスキルが大きく影響していた。(『パーフェクト・ワールド』全ての味方の戦闘力を大幅にアップする)通常でも強いアズキは、これによってまさに無双化していたのだ。


まだまだ戦える・・・アズキは、自分のスタミナが無限にでもなったような感覚を感じていた。いつもならそろそろ疲れがくるのだが、その予兆すらない。


二百騎ほど斬ったところで、アズキが敵に囲まれているのを見つけた、アズキの部下が駆けつけてくる。

「アズキ将軍をお守りしろ!」

そう部隊長が指示するのだが、本人はそんなことを望んでなく、もっともっと斬りまくりたかった。



敵左翼の戦場は激戦であった。ルソ師団、ジュゼ師団と敵のアッシュ師団、ランザック師団が入り乱れての大乱戦となっていた。


「敵の部隊を各個撃破するんだ! あまり広がらず密集して戦え」

無作為に広がる戦場を見て、ルソはそう指示を出す。そんな広がった師団の中を掻い潜り、敵の300ほどの遊撃部隊が、ルソに迫ってきた。


それはアッシュ師団の精鋭部隊であった。遊撃隊の隊長はホメロス、残影剣技と呼ばれる特殊な暗殺剣法を得意とする剣士であった。残影剣技は、初見では避けるのは不可能と言われている変則な技で、不意を突くのを極意としていた。


ホメロスは、敵将を見つけると、一直線にそこを目指す。邪魔をする衛兵を数人斬ると、剣を構える敵将に向かって、残影剣技を繰り出した。


ルソは、迫ってくる敵に向かって剣を構えていた。衛兵が斬られるのを見て、敵の力量がかなりのものであると認識する。そして攻撃してきた敵の剣を見て、素直に驚く。剣が何重にも見えた。七、八本の剣が同時に攻撃してくるような剣撃に、思わず呟く。

「剣筋が見えん・・」

ホメロスの剣は、ルソの肩を貫く。寸前で体を捻ったので致命傷を避けられた。すぐに二撃目が繰り出される。だが、その時、ルソの部下の一人が、乗っていた馬ごと、ホメロスに体当たりする。


ルソは、その体当たりで体制を崩したホメロスに向かって、反撃の剣を振り上げる。その剣はホメロスを捉えることはできなかったが、ホメロスが持っていた剣を弾き飛ばした。

「ぐっ・・しくじった・・」

周りを見ると、突入してきた遊撃隊は散り散りになっていて、一人、アースレイン兵に取り囲まれていた。剣もなく、どうすることもできなくなったホメロスは、一旦そこから逃走する。


そうはさせずとホメロスを攻撃するが、さすがに身軽く、それを避けると逃亡に成功した。


今は敵の遊撃隊だけにかまっていられない、ルソは師団を密集陣形で立て直すと、組織的な攻撃で敵を撃破していく。



最初の敵の攻勢で、ルソ師団とともに、陣形を崩されたジュゼ師団は、幾つかの部隊に分断されていた。それぞれに優秀な部隊長を任命しているので、崩壊は免れているが、師団の戦闘力は激減している。

「ジュルディアの将は侮れぬな・・」


この戦場のジュルディアの将は、五宝将のアッシュとランザックであった、二人はさすがに戦上手で、最初にアースレインの組織力を低下させる為に、機動力の高い部隊をうまく使い、師団を分断することに成功していた。


ルソ師団は、密集することで、立て直しが出来ていたが、ジュゼ師団はまだ分断されたままで、個々での戦闘を行っている。

「ジュゼ将軍。早く師団を立て直さないと被害が大きくなります」

だが、武芸は得意なジュゼであったが、ルソほどの統率の才はなかった。なんとか周りの部隊を吸収してまとめていくが、それが精一杯であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る