第40話 辺境の亜人

北方の辺境と呼ばれる地区は、大きく分けて、西部、東部、北部と三つのエリアが存在する。西部はそのほとんどが、ジュルディア帝国の領土で、北部の多くが辺境大連合の国々である。東部は小さな国ばかりで、その半分は未開の地であり、そこには、多種多様の亜人の集落が存在した。


そんな亜人にも、巨大なコミュニティが存在した。種族間の揉め事を緩和したり、物資の交換や、情報の伝達、また、人間社会への牽制など、その存在意義は大きかった。


辺境の亜人には、いつも人間からの脅威にさらされていた。この日も、そんな脅威の一つである、辺境大連合からの徴兵の依頼を議論していた。それは、辺境の亜人全てに通達されたもので、戦いに参加することで、一定の報酬を支払うとの内容であった。だが、そこには、戦いに参加しなかった種族は、辺境大連合に対しての敵対行動だとも書かれている。


「バカバカしい話だ。なぜ、我々が人の争いに加担しなくてはならない」

そう発言したのは、下半身が馬の亜人である、ケンタウルスの男であった。

「しかし、辺境大連合からの依頼を断ると、後々面倒にならぬか。話の内容からすると、断れば戦いは避けられぬぞ」

半身が狼の亜人がそう言い返す。


「確かに辺境大連合の勢力は脅威だ。もし、戦いとなると、我々亜人は致命的なダメージを受けるだろう」


リザードマンと呼ばれるトカゲ人の発言に、他の亜人たちも頷いている。


「ではどうすればいいのだ。辺境大連合の敵と戦うか、辺境大連合と戦うか・・我々にはこの二択しかないではないか・・・」


そう、嘆きの言葉を口にしたのは、背が低く、筋肉質で毛むくじゃらのドワーフと呼ばれる種族の男であった。それに対して、尖った長い耳が特徴の、エルフの長がこう発言する。それは全ての亜人たちを、驚かせるものであった。

「信用できる人間がいる。その者に助けを求めてはどうだろうか・・」


エルフが人間を、信用できると言った。あの、気高く、プライドの高いエルフが、何者かに助けを求めるとの発言だけでも驚きなのに、その相手が人間とは・・そこに集まっていた、各種族の代表達は、一瞬言葉を失う。


「そ・・その人間とは誰なのだ・・エルフの長のあなたが信用できると言い切る人間とは・・」

それは単純な興味で聞いていた。


「アースレイン王国のエイメル王だ」

「アースレイン王国・・最近聞く、新鋭の王国の王か・・だが、それが信用できるとなぜ、言い切れるのだ。聞くところによると、アースレイン王は、短期間で国土を大幅に拡大させた野心家と聞いているぞ」

「私が、使用できると判断したことが、理由にはならないか」


そう言われると、確かに、エルフが信用する人間・・それだけである一定の信用があるように思えてきた。だが、それだけで、辺境の亜人の運命を委ねるには弱すぎる。そう皆が思っていると、意外な人物からさらなる発言が飛び出る。それはエルフの長の言葉に匹敵するほどのインパクトであった。

「わしらは既に、アースレイン王に従属しとる。エルフの長が言うように、エイメル王は信用に足る人物だ」


それは巨人族の長の言葉であった。あの、争いを嫌う巨人族が、戦いに身を置く野心家の王に従属している・・それは衝撃的な事実であった。エルフの長に、巨人族の長・・辺境の亜人でも、人望のある二人が信用する人間・・他の亜人の長たちは、アースレインの王に会ってみたいと思うようになっていた。


「二人の長が言うのだか、おそらくその王は信用できる人物なんだろう。だが、他にも問題があるがそれは大丈夫なのか」

「なんだ、その問題とは」

ドワーフの長の言葉に、リザードマンの長がそう聞く。


「アースレインを味方にしたとして、その戦力は期待できるのか。あの強大な辺境大連合に、パッと出の小国が、対抗できるとはとても思えないのだが・・・」


その発言に対して、エルフの長が話しをする。

「これはアースレインの戦力の目安になるかわからぬが、あの竜人族がアースレインに従属している事実がある」


それは決定的な情報であった。竜人族が強いのは、ここにいる全ての者が知っていた。そしてその強い竜人族が、自分より、弱い存在の下には決してつかないということも知っていた。


この時点ですでに、亜人の長たちは、アースレインの助力を得られれば、辺境大連合と戦うことを決意していた。

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