第39話 王の器
エルフの集落を後にした裕太たちは、早速、エディス山へと向かった。クェンズ長老に話を聞いたところ、智の鳳凰フィルナは、山の中腹に住んでいるとの話であった。住んでいる場所の詳細も聞いたので、まっすぐそこへ向かえそうである。
エルフの集落から三時間ほど、山を登った場所に、フィルナの家はあった。円形の二階建ての建物で、小さな家とは言えないほどの大きさではあった。
家の前には、小さな人影が見えた。裕太はその人物に近づくと話しかける。
「失礼するよ、こちらにフィルナ殿がいると聞いてきたのだけど、ご在宅かな」
裕太に、そう話しかけられたブルッチは、来客に対して丁寧に対応する。
「これはこれは、お客様ですか、フィルナ様は居ますが、あなた様にお逢いになるか聞いてきたいと思います。ですので、あなたのお名前を聞いてよろしいですか」
「俺はアースレイン王国の国王、エイメル・アースレインという者だ」
「かしこまりました。それではお待ち下さい」
そう言ってブルッチは家の中へと入っていった。
フィルナは、二階のテラスでお茶を飲みながら本を読んでいた。ブルッチが近づくのを感じて、彼を見ないで、その要件を聞いた。
「どうしたブルッチ。何かあったのか」
「はい。フィルナ様、お客様がおいでになってます」
「なるほど、また、アルカの者かな。クェンズ長老からの相談は、厄介な物が多いからね」
フィルナはエルフの使いと思い込んでそう返事をしていた。ブルッチはそれを訂正する。
「いえ、アルカの者ではなく、アースレイン王国のエイメル・アースレインという方です」
「何と・・・」
フィルナは驚いていた。ここはエルフの聖地である。エルフの血を引かぬ者の侵入を、アルカの連中が許すわけがない。もしかして武力で制圧してここへ来たのか・・・
「とにかく、客人をここへ通してくれ」
そう言われたブルッチは、エイメルを呼びに外へと向かった。
アースレイン王国・・確か辺境東部の小国だったと思うけど・・あの国に、アルカを武力制圧できるほどの戦力があるとは考えられないけど・・・フィルナが知る、アースレインの情報は数ヶ月前のものであった。さすがのフィルナも、アースレインという国を注視していなく、まさか、これほどまでに勢力を拡大しているとは考えてもいなかった。
「初めまして、フィルナ殿。俺はエイメル・アースレインです」
裕太はそう言って握手を求めた。だが、フィルナはその手を取らない。
「失礼します。私にとって、握手は特別なものですので、今はその手を握ることはできません」
「あっ、それは申し訳ない。それでは礼だけで失礼するよ」
フィルナにとって、意外な反応であった。普通の王は、このように失礼な対応をされると、怒り出すのが普通なのだが・・想像と違う反応に、少し戸惑いながら、フィルナは、裕太に席を進める。そこに裕太が座ると、フィルナが話を切り出した。
「それでアースレイン王、本日はどのようなご用件ですか」
「単刀直入に言うと、あなたを、アースレインの軍師に迎えたいと思っている」
「なるほど。どこで私の事をお聞きになったのですか、人間の国家には、それほど知名度があるとは思いませんが・・」
「俺の家臣の、竜人族の長である、クリシュナとい者に聞きました。彼が知る中では、あなたが最高の軍師だと聞いています」
フィルナは、すぐには言葉が出なかった。あの竜人族が人間の・・いや、誰かに従属するなど想像もできなかった。だけど・・これでアルカを武力で制圧したカラクリは理解した。確かに竜人族の力があれば、さすがのアルカでも、負けることは考えられる。
「それで、あなたは、ここに来るまでに、どれくらいのエルフを殺してきたのですか、アルカの集落には、数万のエルフが暮らしていました。その者を、何人殺害してきたのですか」
少し怒りの感じられるその言葉を、あまり理解できなかった裕太は、素直に答える。
「え・・と、五十人くらいかな・・」
フィルナはあまりにも少ないその人数に、驚きと怒りでさらに話を続ける。
「五十人とは・・ふざけてるのですかアースレイン王。ここはエルフの聖地です。人間の侵入を決して許さないエルフたちが、それほどの犠牲で、あなたたちを通すわけがない」
「うむ・・何か勘違いされてるようだが、ここへは、クェンズ長老の許可をもらって来てるよ。最初に許可を貰う前に、襲撃があって、仕方なく五十人ほど倒してしまったけど、それ以上はエルフを殺していない」
「嘘をついてはダメだ。エルフが人間を、聖地に入れる許可など・・」
あまりにフィルナが嘘だと言い切るので、裕太はいいことを思いついた。
「そこまで言うのならフィルナ。俺と賭けをしないか」
「賭けだと・・・」
「そうだ。もし、俺の話が本当で、クェンズ長老に許可を貰ってここへ来ていることが本当なら、俺の軍師になれ」
そう言われたフィルナは、少し動揺した。そこまで言うのなら本当なのかと一瞬考えた。だが、エルフの本質から、それはありえないと思い直す。
「いいだろう。その話が本当であれば、私はあなたの軍師となろう。エルフや竜人族を従える人間になら、この私の全てを捧げるに足りる」
裕太とフィルナはすぐにエルフの集落へと向かった。そこへ行けば、それが本当かどうかなのは一目瞭然である。そして結果は・・
「信じられない・・・」
何事もなく生活しているエルフの集落を見て、フィルナは言葉を失う。向こうからは、クェンズ長老が歩いてきていた。
「どうしたフィルナ、ここに来るとは珍しい」
「クェンズ長老・・アースレイン王が聖地に入る許可をしたのは本当ですか」
「本当だ」
「どうして・・・人間を・・・」
「アースレイン王は人間ではない・・そう思ったからだ」
「人間ではないとは・・」
「彼は人じゃ、我らと同じ人なんだよフィルナよ」
その長老の言葉を聞いて、フィルナは全てを理解した。今、目の前にいる王は、もしかしたら、自分の夢を叶えることができる存在なのではないだろうか・・全ての種族が平等な国・・フィルナは、その夢が一瞬見えたように感じた。
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