第20話 騎士の国
騎士将軍と言う呼び名で、近隣諸国に恐れられているアリューゼは、辺境最強の将軍と言われていた。そんな最強の将軍が、仕える王に呼ばれていた。
騎士の国で、名を馳せる、ロント王国の王、ルジャ5世は、呼びつけた騎士将軍に、自らの靴を舐めるように命令する。それは女性であり、将軍として兵の上に立つ、アリューゼにとって、侮辱的なことであった。しかし、彼女はその気持ちを押し殺して、命令に従う。
アリューゼは、現ロント王に、冷遇されていた。それは、ルジャ5世が、王になる経緯に理由があった。ルジャ5世にはミュラフと言う名の従兄弟がいて、その者と王位を巡って争っていた。最終的にはルジャ5世が勝利して、王位につくのであるが、その時、有力貴族であったアリューゼの父は、ミュラフ派の主要人物だったのである。
そのことを現在まで恨みに思っているルジャ5世は、アリューゼの父を暗殺しても心が晴れず、娘であるアリューゼに、その憎しみをぶつけていた。
アリューゼは、兵たちに絶大な人気を誇っていた。将軍としての実力もそうだが、彼女は兵たちに優しく公平であった。なので王も下手に手を出すことはできなかったのである。それが理由で、その恨みの晴らし方は、地味で陰湿な物になっていた。
王は、アリューゼに、汚物でも見るかのような冷たい眼差しで、見やると、淡々と話し始める。
「最近、アースレイン王国なる小国が、近隣の国々を次々と吸収して、その勢力を広げてると聞く。我が国の隣国であるクショウも、その軍門に下ったと報告が入った。クショウとは友好国とまではいかないが、悪い関係ではなかった。このままアースレインをのさばらしておけば、きっと我が国にも侵攻してくるだろう。アリューゼ将軍、兵、千を率いて、アースレインを討伐してまいれ」
王がそう言うと、近くに控えていた、ロント王国の軍師であるバッシュウが意見する。
「お言葉ですがルジャ5世様、アースレイン王国は現在、幾つもの国をその勢力におき、吸収した国の兵を多数従属させ、その兵力は二千にもなると報告がございます。いくらアリューゼ将軍でも、千の兵では返り討ちにあうのが目に見えてるかと」
「ほう・・辺境最強の将軍が、たかが倍の相手に遅れをとるとお主は言っておるのか、いらぬ心配だな」
「しかし陛下・・」
「いらぬ心配だと言っておる、バッシュウ!」
「はっ・・・」
「どうだ、やれるかアリューゼ将軍」
アリューゼは表情ひとつ変えることなく、こう返答する。
「我が命に代えましても、必ず、アースレイン王国を討伐してまいります」
「よく言ったぞアリューゼ、期待している」
正直、この戦い、勝っても負けても、王にとってはどちらでもよかった。アリューゼが死んでくれても問題ないとさえ思っていた。そうなると千の兵はちと多いか・・そう思ったが、これ以上少ない兵では、さすがに周りが不審がるであろうと考えを改める。
命令を受け、自宅に戻ったアリューゼは、まだ幼い二人の妹と、一人の弟に、戦に出る為に、しばらく留守にすると言い聞かせる。姉を慕う三人の子供たちは、泣いてそれを抗議してきた。
「嫌だお姉さま、どこにもいかないで」
「いつ、帰ってくるんですか・・」
そんな弟妹たちを、姉は優しく諭す。
「すぐに帰ってくるよ・・」
「死んじゃ嫌ですよ姉上・・」
「姉さんが死ぬと思うか。すごく強いのをお前たちも知っているだろ」
「うん・・」
「今日は父さんたちの大きなベットで、四人で一緒に寝よう」
「本当! やったー」
アリューゼは、今回の戦いに対して、嫌な予感をしていた。これまでも、王の無茶な命令で、劣勢の戦いは珍しくなかったが、今回の相手・・アースレイン王国には、何か大きな力を感じていた。弟妹の為にも、生きて帰りたいが・・
アリューゼに用意された千の兵は、アリューゼを崇拝する、天星騎士団、500名を中心に編成された。これはルジャ5世の意向で、おそらく王は、アリューゼとともに、そのシンパを一掃できれば良いと、考えているみたいだ。
「これより、アースレイン王国の討伐に向かう。敵は強大だが、我らに砕けぬ岩は無い。全軍、出撃!」
こうして、辺境最強の名を持つアリューゼが、千の兵を率いて、アースレイン王国へ侵攻した。それは、新しい時代の幕開けとなる戦いの始まりであった。
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