第10話 殺戮の王

その王は巨大な処刑場を建設させていた。自分の意に沿わない者や、滅ぼした国の者で、自分に従わない者を殺す為のものである。これだけの巨大な処刑場が必要だと考えるのは、それだけの国を滅ぼし、数多くの者を殺戮するがあるということであった。


「ヴァロン。軍の準備は整ったか」

ヴァロンと呼ばれた、大柄で、いかにも屈強といった風貌の男は、頭を下げながら報告する。

「はっ。10万を一軍団とする、十の軍団の編成が完了いたしました」

「よし、では早速、隣国である、ジュラ公国とヘルミラン連邦に侵攻せよ」

「御意にございます」


命令を実行する為に、ヴァロンがその場を後にすると、王のもとに一人の男が、兵士に拘束されて連れてこられた。その男は恨めしい目で王を睨むと、その思いを吐き出した。

「ルパラス神帝・・貴様の暴虐により、このレイディモンもお終いだ。我が一族を抹殺しても、必ず誰かが貴様を滅ぼすぞ!」


ルパラス神帝と呼ばれた男は、眉一つ動かさないでその男に言い放つ。

「ルト男爵。言いたいことはそれだけか? 貴様が我を暗殺しようとしたことの理由がそれだけなのか・・まあ、良い。貴様の希望通り、ルト男爵家の者は、老若男女全て、斬首に処す。その全ての刑の執行を、貴様に見せて、それが終われば貴様の番だ」


「この・・・悪魔め・・」

「悪魔ではない。神帝だ。神に等しき皇帝だ。そんな下等の者と一緒にするな」


ルパラス神帝こと黒崎天海くろさきてんかいの思考は、強大な権力の上で、徐々に狂いを生じてきていた。元々、他者に対して、残忍な思考の持ち主であったのだが、それを抑制するものが何もなく、本来の残虐な本質が顔を見せていた。


黒崎は人払いをして、クラスのチャンネルを開いた。誰かからメッセージが届いたのだ。

「誰だ・・」

「黒崎・・俺だ。広尾純也ひろおじゅんやだ。ちょっと話がある」


広尾純也は、運動ができるでもなく、勉強ができるでもない平凡な人間であった。その為、クラスではほとんど目立つことがなく、黒崎も、顔がすぐには思い出せないほどであった。


「広尾か、何の用だ?」

「貴様の国が、ジュラへの侵攻を開始したと情報が入った。すぐに兵を引いてくれないか」

「なぜ?」

「ジュラ公国は俺の国だ。何もクラスの仲間で争うことはないだろ」

「仲間? 誰と誰が仲間だって言うんだ。俺には仲間などいない。いるのは忠実な家臣と、抹殺するべき敵だけだ」


「ちょっと待て、ジュラ公国の兵力など10万ほどだ、今、レイディモンなんかに攻められたら一溜まりも無い・・」

「お前は馬鹿か? だから攻めるんだよ。確実な勝利が理由だ」


「くっ・・・クソ野郎が・・クラス会でこのことは報告するぞ! さすがのレイディモンでも、中央七大国や、不動のボルティロスを相手に勝てると思うなよ!」


「ふっ。あんな低脳な奴等に負けるなんて想像ができないな」

「後悔するなよ黒崎・・」


そう言って回線は閉じられた。


さすがに今、クラスの全員の国を相手に戦うのは不可能なことだと黒崎も気づいていた。幸い、ほんとんどの国は遠く離れているので、今、注意するのは、同じ南方の国々だけだと、黒崎は考えていた。


クラスの連中で、同じ南方なのは自分も含めて九名。その中で、警戒するのは、何かと頭の切れる、鳴子紫苑なるこしおんと、女子に人気のある鳳弥之助おおとりやのすけくらいか・・あとは正直、ものの数ではない。


同時に複数の国との戦いを考えると、今の戦力では足らない。黒崎は、宰相のイブラヒムを呼んでこう命令した。


「オリハルコン硬貨を1万枚用意しろ」

「はっ。かしこまりました」


「あと、今夜、女を10人ほど部屋によこせ。胸の大きな娘を選んでな」

「はっ・・しかし・・新帝様・・昨日のように呼んだ娘を一晩で全て壊すのは控えていただけますでしょうか・・」

「我に意見するのかイブラヒム・・・」

「いえ・・ただ、そのような行為は、国内に悪い噂として流れます・・それはあまり良くありませぬので・・」

「殺せば良い」

黒崎は、無表情でそう言い切った。イブラヒムは言葉を失う。

「そんな噂をするものは、全て殺してしまえ。その為の大処刑場だ。良く考えろイブラヒム」


この男は人間ではない・・・イブラヒムは心の中で、悪魔以上の何かであるその王に、心の底から恐怖を感じていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る