第9話 財務大臣
アルビオン家の屋敷はすぐにわかった。うちの城の五十倍はあると思われる広大な敷地に、もはやうちの城より城っぽい大きな屋敷が立っていた。
屋敷の前に立っている衛兵に、エイメル・アースレインの名を名乗り、リュジャナに取り次いでもらった、だけど、嫌われてるらしいので会ってくれるかどうかもわからない。
しばらく待つと、衛兵が戻ってきて、屋敷の玄関へと案内された。玄関の大きな扉が開かれ、そこには年配の女性が立っていた。
「これはこれはエイメル様、ご立派になりまして」
向こうはこっちを知っているようだけど、当然のごとく、俺はこの人を知らない。とりあえず、無難に挨拶をする。
「ご無沙汰しています。リュジャナはいますか」
「はい。今、応接室でお待ちしております。さぁ、こちらへどうぞ」
その人に案内されて、俺は広い家のさらに奥へと歩みを進めた。うちの城だったら、城中回れるくらいの距離を歩かされて、立派な扉の前までやってきた。その扉は、二人の召使いによってゆっくりと開かれる。
広い部屋の真ん中に、立派なソファーが置かれており、その一つに金髪の少女が座っていた。
「エイメル・アースレイン!」
その少女は大声で俺の名前を呼んだ。俺は恐る恐るそれに返事をする。
「はい・・・」
「そこに座りなさい」
それを拒否する雰囲気はそこにはなく、俺は素直に従った。
「久しぶりね。エイメル」
「そうだね・・元気にしてたかいリュジャナ」
「元気にしてたかですって? よくも私にそんなこと言えますわね」
「はははっ・・」
とりあえず、昔の記憶とやらが無いので苦笑いでごまかす。
「覚えていますの! あなたが、私に何をしたか・・いえ、何をしなかったか!」
「はははっ・・え・・と。なんせ、子供の頃の話だからね・・ちょっと記憶が曖昧と言うか・・うっすらな感じと言うか・・」
リュジャナはじとっとした冷たいで目で裕太を見つめると、話を戻した。
「そんなことより、今更何しに来たのですか。お金を貸してくれなんて要件だったら張っ倒しますよ」
「・・・・・・・・」
「図星なのですか!」
「すまない! 少しでいいんだ。急に兵が増えてね、兵舎を作りたいんだけど、先立つものがなくて・・一ヶ月で必ず返すから、すまないけど貸してくれないかな」
「・・・・まあ、お金なんて腐るほどありますから、貸してあげてもいいですけど・・・」
「おっ、マジで、ラッキー。よかったよかった」
「た!・だ!・し! 条件があります」
「なんでしょう・・・」
俺が恐る恐る聞くと、リュジャナは厳しい顔でこう言ってきた。
「私をアースレイン王国の財務大臣に任命しなさい。そろそろ国の資金運用を経験したいの。問題ないわよね」
「あっそんなことなら問題ないよ。任命するする」
「軽いわね。財務大臣よ? 大臣なのよ?」
「たぶん、今いないから大丈夫だよ」
「エイメル・・あなら本当相変わらずよね。まあ、いいわ。いくら必要なの?」
「そうだね。百人くらいの兵舎を作れるくらいの金額でいいんだけど」
「ミスリル硬貨10枚もあれば足りそうだけど、一応、50枚用意するわ」
また聞きなれない単語が出てきたな・・ミスリル硬貨ってなんだよ・・神はどうも俺に、意図的にその辺の金銭的な知識を付与してない気がする。
「ミスリル硬貨って・・はははっ」
「・・・もしかしてミスリル硬貨も知らないの? ルウガに行って、バカになって帰ってきたんじゃないのエイメル。ミスリル硬貨は金貨の上位通貨でしょ。金貨100枚でミスリル硬貨1枚。ちなみにその上がオリハルコン硬貨で、ミスリル硬貨100枚でオリハルコン硬貨1枚の価値があるわ。まあ、あなたの国のような貧乏国家には見ることのない通貨でしょうけどね」
「はははっ・・そうだったね」
どうもゼダーダンの話だと、リュジャナにすごく嫌われていると思っていたが、意外にそんな感じでもないじゃないか。昔に何かあったみたいだけど、心の底から恨まれているってものでもないようだし。
「それよりエイメル・・あなた婚約者とか・・その・・決まった人とかいるの?」
なんかさっきまでの雰囲気と違ったリュジャナは、モジモジとそう俺に言ってきた。婚約とかそんな話も今はないので、素直にそう答える。
「いや、そんな人いないよ」
それを聞いたリュジャナは、なぜかわからないけど、ものすごく喜び、満面の笑みで俺を見つめる。
「そっ・・それじゃ、俺、まだやることが残ってるから城に帰るね」
リュジャナに見つめられ、今まで感じたことのないその空気に圧迫された俺は、そう言ってアルビオンの屋敷を出ようとした。リュジャナはちょっと残念そうな顔をして、こう話す。
「そう。それじゃ、明日にでもお金を持って城に行くわ。その時、正式に財務大臣を任命してちょうだい」
「うん。わかった。待ってるよ」
裕太が屋敷を出るのを見送ると、リュジャナは独り言のようにこう呟く。財務大臣になればいつでも会えるから・・この先、機会はいくらでも作れるわね・・リュジャナはそう言うと微笑んだ。
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