第7話 山賊退治

そういえばゼダーダンが内政の問題がどうとかって言ってたな・・俺はそれを思い出し、ゼダーダンを呼んだ。


「お呼びですかエイメル様」

「そういえば前に内政の問題の話をしてたと思うんだけど、今、話せるかい」

「はい。今、我が国の現状と言いますか、現実をお話しいたします。国家予算が金貨二千枚との話はしたと思うのですが・・」

「そうだね、聞いた」

「その二千枚のうち、半分の千枚は、国内にアジトを持つ山賊団に渡していまして・・実質、残りの千枚が使える国家予算となっています」


「え! なにそれ。どうして山賊にお金渡してるの?」

「国内で暴れ回らない代わりの交換条件です」

「そんなの退治すればいいじゃん」

「我が方の兵力は30名・・それに比べて山賊は100を超えるのです。物理的に戦っても勝ち目がありません・・・」


「なるほど・・よし。それじゃ、まずはその山賊退治だね」

「エイメル様、奴らは山賊と言いましても、元は辺境の西にあったルードル国と言う国の正規兵たちです。武芸に長け、我が国の兵より遥かに強いです、さらにそんな山賊どもを率いるのはガゼン兄弟と言う、ルードルの元将軍の二人です。二人とも猛将と知られた将軍で、大変強いと聞いています」


「そうか、油断するなってことだよね」

「はい。お気をつけて退治してください」

「止めはしないんだ」

「はい。エイメル様ならきっと退治してくれると信じています」


ゼダーダンの思考がたまに読めない。心配している様子もないし・・信頼している様子もない・・どうなってもいいみたいな雰囲気をたまに感じる。


とにかく山賊を退治する為に、俺はアズキを呼び出した。

「おう。呼んだかエイメル」


もはや俺のことを友達か何かと思っている我が国の将軍であるが、今、うちで一番頼りになるのはコイツしかいない。ゼダーダンに、兵を集めるか聞かれたが、俺はその必要はないと断った。


「もしかしてお二人で山賊退治に行くのですか?」

「そうだよ」


軽くそう答えると、さすがにゼダーダンも驚いている。詳細を話したアズキは、戦えるのが嬉しいのか、早く行こうと急かしているくらいであった。


神との約束を信じるのなら、俺には神に与えられた戦闘力があるはずである。そんな俺と互角以上に戦うアズキ・・それを考えれば、いくらどこかの将軍であろうが、負ける気はしなかった。


山賊のいる場所をゼダーダンに聞くと、早速二人でそこへ向かった。歩いても大して時間のかからない、城からすぐの小さな山に、そのアジトがあるのだけど、なぜか話の流れで、そこまでをアズキと俺で、どっちが先に到着するか、競争することになった。俺の掛け声で、一斉に足りだす。さすがにあれだけの戦闘能力のあるアズキである、足も異常に早い。


「やるじゃねえかエイメル! この私についてくるとはなかなかやるな」


元々足は早い方だったのだけど、やはり神のドーピングの力か、俺もとんでもないスピードで走っていた。多分控えめに見ても、馬より早い。


「エイメル! もう直ぐ目的地だ。そろそろ本気出すぞ!」


そう言うとアズキは、とんでもない速さから、さらに加速する。俺も負けずに足の回転を速めて加速した。



山賊たちは昼食中であった。


各々火を囲んで、焼いた鶏肉や、魚などを美味しくいただいていたのだが・・・いきなりの轟音と、噴きあがる砂塵に、一瞬何が起こったか理解できなかった。イメージではアジトの中に、風の魔神が飛び込んできたような感覚であった。しかし、砂塵のおさまったその中心には、女と男の二人の剣士が・・なぜか言い合いをしていた。

「私の勝ちだな」

「いや、待て、俺の足の方が先に到着したぞ」

「何言ってんだよ! 私の豊満な胸が、先にアジト内に入っていたぞ」

「ふっ・・策を弄して墓穴を掘ったな貧乳剣士! お前のどこに豊満な胸があるんだ」


「愚かな! このライトアーマーの下には溢れんばかりの豊満な胸が隠されているんだよ。見せてやろうか!」

「じゃあ、見せてみろよ!」

「なんだとこのスケベが!」

「お前が言ったんだろうが!」


「あの・・・あの・・いいですか?」


「うるせぇ!!」

山賊たちの呼びかけに、俺とアズキの声がハモる。


状況がわからない山賊たちは呆然としていた。しかし、アジトの奥から二人の大男が出てくると、山賊たちに緊張が走る。


「よくわからんが襲撃かてめえら」

「ここがどこかわかってきてんだろうな」


二人の大男の言葉に、俺たちは一睨みしてその言葉の返答とした。


「アズキ、先に言っとくけど、殺しちゃダメだぞ」

「なんでだよ。めんどくせいな」

「考えがあるんだよ。半殺しは許すけどほどほどにな」

「仕方ねえな・・・」


アズキはそう言うと、抜きかけた剣をおさめ直す。そしてその辺に転がっていた棒切れを拾った。

「じゃあ、これで十分だな。エイメルはどうするんだ?」

「俺はこれだ」

俺はアズキに拳を見せてそう言った。実は俺は空手の有段者である。ただでさえ空手家の拳は凶器なのだが、神ブーストのこの体で使えば、下手すると剣より強力かもしれない。


大男の一人が部下の山賊たちに向かって声をかける。

「片付けろお前ら!」


それを聞いた山賊たちは、一斉に裕太とアズキに襲いかかった。


山賊たちは完全になめきっていた。棒切れを持った女と、素手の男が相手である、それは仕方ないことだったかもしれない。だが、最初の突撃で、女が振った棒切れに、鋼鉄製の斧が粉砕されたのを見て、それが間違いであることに気がついた。


アズキの一振りで、山賊五、六人が吹き飛ぶ。裕太の蹴りと拳で、山賊の数人が一瞬で気を失った。最初の攻防で、襲いかかった山賊の半数が行動不能へと帰られた。


さすがに状況を理解した山賊たちは、恐れを抱き、二人と距離を取り始めた。


「お前ら何もんだ・・・」


大男の一人がそう呟く。それに対して裕太は、堂々とこう答えた。

「俺はアースレイン王国の新国王、エイメル・アースレインだ」


二人の大男はそれを聞いて眉を細める。そして巨大な斧を手に持ち、裕太とアズキに近づいていった。




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