もだ恋 ~もだもだするけどキュンとする恋がしたいっ~
@yamato_kaku
第1話
■第1話
その人は、寡黙だった。
何をするにしても、自分の意見は言わない。
黙って人について行く。
だけどその人は、時として背中で語る人でもあった。
理解してもらわなくても構わない。
自分が決めた道は断固として譲らない。
理解している人は少ないかもしれないが
彼女は、本当に進むべき道を示している賢者に見えた。
その人は、寡黙だった。
だが、何もしないわけではなく自分の意見はハッキリと言う方だった。
かといって周りの反感を買うわけでもなく、妥協案も提案できた。
典型的な図書委員、もしくは学級委員長タイプ。
学年に一人はいる、ちょうどいいポジション。
誰とでも、どんな風にでも付き合える彼女は
私には到底進めない道を切り開いている勇者に見えた。
『私には、そんな彼女がまぶしすぎた。』
ある種の葛藤と枯れることのない思いが心を締め付ける。
シャッター越しに見る景色は時にモノクロに染まりながらも
あの人を写す時だけは色鮮やかに、鮮明になる。
彼女は、そんな自分が嫌いだった。
高校で写真部に所属する
高校生の写真コンクールで出てくる写真は、似たような景色ばかり。
それこそ、旅行雑誌に載っているような夜景や観光地だ。
そんなありきたりの日常に嫌気がさしていた彼女が取った写真は
高校生同士のコンクールなどでは到底では比べられなかった。
彼女はそれでも良かった。
「誰もわかるはずがない」
そうタカをくくっていた。
本人は写真に全くもって興味は無いものの、父との関係性を生徒に知られてしまい
しぶしぶ顧問を引き受けた。
とはいえ、彼に隠す気がなかったのも事実だが。
顧問はコンクールに出展する写真を選別していた中、ある景色を見て、思わず身震いした。
「この写真撮ったの誰だ!?」
思わず叫んでいた。
生徒たちは、唐突に叫んだ顧問を見て呆気に取られていた。
それもそうだろう。
この男は写真に興味が無いにも関わらず、顧問を引き受けているのだ。
そんな彼が思わず叫ばずにはいられなかった、何が起きたのか分からないという顔をしていた。
「あ、いや。突然すまない。」
彼は立ち上がって、先ほどと同じセリフを、今度はいつもと同じ調子で言い放つ。
「わたし、ですけど。」
驚きの内容は顧問とは違っていたが、
何かの間違いではないだろうか。
この写真を撮影したのが、入学したての新入生だなんて。
夏の写真コンクール用の写真になるため、新入生は任意提出としていた。
やる気は買うが、正直入学したてで余裕がないものと決めつけていた。
「先生?」
不意に呼ばれた拍子に、彼はふと我にかえる。
「その写真、私が撮りましたけど・・・」
名乗りでた彼女は、訝しげに顔を覗き込んでくる。
「ああ、いや、すまない。ちょっと考えていた。」
別に妄想にふけっていたわけではない、と弁明する。
「何をです?」
彼女にとっては純粋な疑問だろうが、周りの女性陣からは冷たい視線を送られている。
大方、変な想像をしていたのだろうと思われているのだろうか。
このままでは教師の威厳に関わる、なんてことを彼は考えてはいないのだが。
彼は意趣返しのように、
「この写真が何を伝えようとしているのか、考えていたんだ。」
「君は、どういうメッセージをこの1枚に込めた?」
別に皮肉を言ったわけではない。
ただ、頭に浮かんだ疑問をそのまま述べただけであった。
しかし、時としてそれは・・・
「先生、それ・・・」
「本気でおっしゃってますか?」
天然、というワードとともに人の神経を逆撫でしてしまう危険性もはらんでいるのであった。
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