メガネザルの恋。

亜保呂都留

第1話

メガネザルは恋をした。正確には、恋をしたのはどこにでもいる女学生、寺嶋麗子テラシマ レイコ。17歳。丸メガネにきっちり結ばれたお下げで毎日私立の女学校に通っている。とまあ話は逸れたが、兎にも角にも人生初めての恋をしたのだ。その上相手は同じ組の女の子。驚き桃の木山椒の木、と言うやつである。あたりきしゃりきよくるまひき...。何かの呪文のようだ、と一人考える。恋に効く呪文だったらいいのにな、と阿呆なことを連想してしまう程度には私は彼女に惹かれていた。そう、彼女は本当に可愛らしい少女なのだ。栗色の髪をボブカットにして、くせっ毛なのかいつももみあげあたりの髪が内向きにくるんと向いていて、ふわふわしてそうで、それが小動物のような外見にぴったりで、なんというか、庇護欲を煽るというか、そう、とても可愛らしいのだ。そこまで頭の中で語って思わず自分で自分の意見に唸り頷いてしまった。

「おはよぉ、れーこちゃんは愉快だねぇ。何してんの?」

肩をぽんと叩かれる。鈴がなるようなその声の持ち主は、彼女――椎名萌シイナ モエだ。先程まで自分の世界に入っていた私には、突然のことに思考が追いつかず、私の口からはへあ!?みたいな、奇妙な声が飛び出た。最悪だ。絶対なんだこいつって思われた。もうやだ。帰りたい。と思ったが、まだ登校してきたばかりである。思い直して組んでいた腕を解き、顔を上げる。

「あはは、何その声。れーこちゃんおもしろぉーい!」

キャッキャウフフ。本当に楽しそうに笑う顔に思わずこちらも笑みが零れた。嗚呼、愛おしい。守りたい、この笑顔。かな。

「えっと、なっ、何だろうね。それより、おはよう。......萌、ちゃん。」

ぱちぱちと瞬きを数回して、花がほころぶように微笑む彼女。私は彼女に恋をしている。

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メガネザルの恋。 亜保呂都留 @naitouhiu

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