不死身の俺を殺してくれ

S【雑賀 禅】

第1話 序章

 もう、生きることに疲れた。誰か、俺を殺してくれないか。


 何度、自身の心臓を貫いても、その鼓動は止まない。


 その度に後悔しているんだ。


 どうして、あの時。俺は、あの男の肉を喰ったのか。


 生きたいと願ってしまったのか。


 あのまま、冷たい雨に打たれて、血の海と化した戦場で逝けば良かった。


 あれから何年経ったのだろう。


 もう百年以上は生きているような気がする。



 ────俺は死ねない。永遠に。



 ◇


「またか……くそっ」


 悪態をつきながら血まみれの身体を引き摺り、夜の闇に紛れ消えていく男。


 れんという男は、先ほど道路を横断している最中さなかに、猛スピードで車道を走行していた自動車に派手に追突された。


 その身体は勢いよく宙に舞い上がり、その勢いのまま硬いアスファルトに身体を強打する。全身が砕けるような感覚に、吐き気が込み上げた。


 今度こそ、死ねるかもしれない。


 少しの期待と、いつもの諦念感が脳裏で交差する。


 だが結局、煉はまた死ねなかったのだ。


 不死身と言えど痛覚はある。それこそ、気が狂うような痛みを味わったことだって、一度や二度じゃない。


 なのに、それでも煉は死ねない。


 この辛さは、独りで永遠の時を過ごす辛さは、誰にも理解出来ないだろう。


「……うっ、ぐ……」


 口内に血が溜まり不快感に耐えきれなくなり、道端に思わず吐き出してしまう。


 ああ、何ヵ所骨が折れてるんだ。これは……。


 しばらく仕事は無理そうだなと思考する。


 いや、その前にこんな状態じゃ、もう仕事場には行けないか。また新しい仕事を探さなければいけないな。


 全身の痛みで意識が途切れ始める。

 アパートに戻る体力は、すでにない。


 煉は仕方なく人気のない路地裏に身を隠し、一晩を明かすことに決めた。


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