第169話湖建設!

 翌朝早朝、僕達の姿は街の外にありました。

 しかし本当にここまでする意味があるんでしょうかね?

 守るに易しという事は逃げ出す事も難しくなると思いますが……。

 しかもたった1つの連絡通路を閉ざされれば――容易に兵糧攻めをされそうなものです……。

 僕がそれを尋ねると、フローゼ姫からは――。


「食料なら隠し通路の先に沢山あろう。魔物の上質な肉が」

「でも魔物を一般の兵達が簡単に倒せる訳では無いですよね?」

「エリッサ嬢と子狐さんがおるでは無いか」


 あれ……僕は王都奪還作戦にエリッサちゃんも参加するものだと思っていましたが、どうやら違ったようです。


「王都の奪還作戦は、妾とミカ殿、子猫ちゃんの3人で行う。守りに適した魔法を使えるエリッサ嬢には拠点となるここの守備をしてもらった方がよかろう」


 確かにそれは一理ありますね。


 エリッサちゃんの攻撃魔法で有効なのはブリザードとサンダーだけ。

 でも防御魔法でいえば、ストーンウォール、ストーンサークル、ファイアーサークル、ストーンガードが使えるエリッサちゃんは僕達のメンバーの中でも一番です。

 ストーンサークルに関しては僕の消滅魔法でしか壊す事が出来無い程強力なものでしたからね。


「いざとなれば、食料は森の奥から供給出来る。まさか皇国軍も奥深い森まで隠し通路が伸びているとは思わぬだろうしな」


 それ以前の問題として、森の奥に生息する魔物はCランクが多く一般の兵では犠牲の方が多く出る為に入ろうとは思わないでしょうね。


「それでだ――妾が手始めにここに穴を掘るから子猫ちゃんは穴の底から妾が指示した方角にあの魔法を放ってくれ」

「子猫ちゃんの責任重大にゃ!」


 ミカちゃん何でそんなに嬉しそうなんですか……。

 僕は方角よりも川まで到達した消滅魔法が、その先までぶち抜かないかそっちの方が心配ですが。


「砂漠で子猫ちゃんが放った魔法が川で止まったのは知っていると思うが、妾はあの到達地点を見て一つの仮説を立てた」


 ん……なんの事でしょうね。


「子猫ちゃんの消滅魔法は――土の物質ならそれだけを消し飛ばすが、違う物質が混ざると勢いを止めるというものだ」

「それって、最初に狙った性質の物を消し飛ばすだけで、途中に違う物質があれば防がれるという事ですか?」

「分かりやすく言えばそうだな」

「それじゃ人を狙って放てば、人を消し飛ばした先に木があったら木は無傷という事ですかね? おかしくないですか?」


 僕がフローゼ姫の仮説を否定すると、


「言い方が悪かったか。消滅魔法に使われる魔力を消費するまでは先に進むが、同じ属性の物質だけであれば魔力の勢いはそのまま。川の様な大量にある水属性の物質に当たれば勢いは止まる。人を構成している物質は水だ。使われた魔力に相応しい分だけの人間を倒し切れば最後にある壁は壊せない。こんな考え方ではどうだ?」

「鎧を着た騎士相手に放てば、水属性じゃない物質も混ざっていますよ?」

「その場合は、騎士に当たる度に勢いは弱まっていくと考えられる」


ふむ……全くわかりません。


 僕は言われた場所に消滅魔法を撃てばいいだけですよね。

 難しい事は頭のいい人に任せます。

 僕がそう漏らすと、フローゼ姫は苦笑いを浮かべながら――。


「では、まずは妾からだな」


 ここは西門を出て1m程度壁から離れた場所です。

 フローゼ姫は掌を地面に翳すと、一気に魔力を纏い魔法を放ちます。

 すると――。

 騎士達を閉じ込めた規模より大きく深い穴が出来上がりました。

 水面から壁までの距離は人が1人通れる程度まで狭まっています。

 壁の反対方向までの距離はおおよそ50m、幅は100mはあるでしょうか。

 このサースドレインは長方形の形をしていて、外周4600mあります。

 46回も今と同じ魔法を使わなければ囲い込む事は出来ません。

 先の長い話ですね。

 フローゼ姫の魔力量では1日5回が限度の筈です。

 少なくとも10日近くは掛かる計算ですか……。

 それまでに敵が責めてきたら――こんな穴を通って軍を進める人はいませんね。

 なるほど、それを見越しているのかもしれません。


「子猫ちゃんの出番はまだ先になるな――街を完全に覆ってからの方が良かろう」


 砂漠の国と同じですね。

 引いてくる水の量は何十倍もありますが……。


 その日、フローゼ姫は僕の予想違わず5回の魔法行使で気絶しました。

 市壁から外を眺めている住民や兵達は、突然出来る巨大な穴に最初は驚いていましたがそれにも次第に慣れるとこの先に訪れるであろう新たな戦火に戦々恐々、皆表情が引き締まっていきました。


            ∞     ∞     ∞

 ――5日後。


「皇帝陛下、旧アンドレア国を担当しておりますハンドレイク将軍が火急の要件があるとの事で帝にお目通りを申し出ております」


 ここはエルストラン皇国首都、レイスルーン。

 大陸最大最強の軍を持つ大都市です。

 騎士の数は10万人。他全ての兵を合わせれば実に20万人もの戦力を要する武闘派国家の中枢。


 大都市の門は他国のそれとは違い、それぞれの門、市壁に兵が住み込み都市を囲う壁そのものが兵宿舎になっていて、その壁は最奥の城までに5つ聳え立ち、手前から奥に行くにつれ高くなっている為に巨大な要塞といった造りになっています。

 門から皇帝のおわす居城まで最低でも5つの門を通らなければ辿り着けず、5つの門を通り過ぎても王城の強固な壁に守られた最後の門を通る事が許されるのは、帝より与えられた金の許可証を持つものだけ。

 騎士でも将軍以下は入場する事罷り成ならず、貴族位であっても侯爵以下は入場出来ない程制限の厳しい場所です。


 サースドレインの城で勝ち目が無いと判断したハンドレイク将軍は城壁の門では無く、4番目の門で止められ帝へ此度の報告をと陳情にやってきていました。

 最初の門から3番目の門を通るのに許可証は必要ありません。

 しかし4番目の門と5番目、最後の門を通るのには許可証が必要となります。

 ハンドレイクは将軍とはいえ所詮外様。

 許可証を持たない故に門で止められていました。


 4番目から5番目の門までの間にあるのは皇国でも貴族位にあるものの屋敷。

 5番目から最後の門の間には――帝を神と崇める宗教者たちの住居です。


 初めてここを訪れたハンドレイクは将軍職にありながら、4番目の門で留め置かれた事に焦りと不安な面持ちを浮かべていました。

 貴族の次男坊でグースドレイク侯爵のコネで騎士団長になったとはいえ、行動は迅速を要する事の重要性は理解しています。

 しかし1時間、2時間と時間が経っても一向に城から遣いの者がやってくる気配は無く――ただ時間だけが過ぎ去り、日が暮れた頃に漸く声を掛けられます。


「あなたね? あの国からやって来た将軍ってのは――」

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