第167話騎士を説得。その2

 幸い穴の中に監禁した時に剣等の武器類は全て没収しています。

 お互いに剣を持っていれば抜き合って事を大きくしそうな局面で、アランが口を挟んできます。


「オルケン殿、今はフローゼ姫の話を聞いている最中なのだが……」


 騎士の中には貴族の位を傘に好き放題する者もいるとは聞きますが、基本的に先輩後輩の差はあっても家の位は仲間内では通じません。会話からも分かる様に恐らくアランの方が先輩なのでしょう。

 アランが口を挟んだ事で、オルケンは苦虫を嚙み潰したような面持ちで彼を睨みますが、オルケンが大人しくなった事でフローゼ姫は話の続きを語ります。


「王城には妾達王族しか知らぬ部屋がいくつかある。その中の抜け道から王都へ潜入しようと試み、王が皇国より守り通した民の税を見つけたのだ。その使い道を記した書類と共にな。何故、皇国が攻め入ったにも関わらず王族が誰一人として逃げなかったのかわかるか?」


 フローゼ姫の問いかけに皆は首を横に振ります。

 それを見て取り会話は続きます。


「父は、国王陛下は自分たちが逃げ出せばその通路の途中にある金貨数万枚が見つかってしまう。それでは自分に汚名を着せ皇国に税を搾取される。それを危惧した為に、民から集めた税を守る為にむざむざ処刑される道を選んだのだ。後に戻ってくると信じる妾に――後を託す遺言の言葉と共にな。ふっ、遺言にはこう書いてあったよ。民達の為に使えと……」


 フローゼ姫の口から語られた言葉は、民の為に騎士になった者、民から成りあがった騎士達の心を揺さぶります。

 でもここでまた貴族派の騎士でしょうか、小男でもオルケンでも無い騎士が声を上げます。


「俺は家族から王族が誰一人として逃げられなかったのは、この国の事を思い立ち上がった貴族派が早々に身柄を拘束したからだと聞いているぞ。フローゼ姫の話に惑わされるな!」


 貴族派は自分の国を手放して皇国で貴族の位を頂いたと聞きます。

 自分可愛さで他国に国を売った売国奴の言う事を信じる人がいるんでしょうかね?


「ではそなたに問おう。妾は王の遺言書を今、もっておる。ただし父から娘への私情を挟んだ内容も一部書いてある為に恥ずかしくて見せたくは無いのだが……それに書かれておるのは時系列で言うといつだ? 皇国が王都周辺にやって来た時に書かれたそれは、確かに王がその場に置いたものだがお前の言う貴族派がいち早く拘束したと言うならそんな手紙が残されていてはおかしいだろう」


 フローゼ姫がそれこそが王族が逃げ出さなかった証であると告げると、反論した騎士は口を噤んでしまいました。


「その文を我等が見せて頂く訳にはいかないでしょうか?」


 アランが王から娘へと書いた遺言書を検分したいと申し出ます。

 私的な内容が含まれていると言っているのに――そこまで人を信じられないんですかね。それに民の為に使えとは書いてあった筈ですが、その手段はアンダーソンのお爺さんが話してくれたもので、証拠はありませんよね。

 僕がフローゼ姫の動向を窺っていると、彼女は銀色の前髪が掛かった頬を僅かに赤らめ胸元から羊皮紙を取り出しました。

 正面に立つアランにそれを渡すと、アランを中心に平民あがりの騎士達が集まってきました。

 アランが声を出し読み始めると――。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! せめて黙読で頼む」


 フローゼ姫が真っ赤に顔を染めながらそれを止めます。

 アランが読んでいる隣、背後から羊皮紙を覗き込んでいた騎士達の口からは、姫騎士の話は本当だだった。王は愚王では無かった。貴族派に我等は踊らされていたのか。と、口々に感想が漏れだします。


 すると――。


「そんな羊皮紙、後からでも捏造出来るぞ! それは偽物だ!」


 小男が叫びます。

 それに同意しオルケンも王が書ける訳が無い! と言葉を吐き出しますが、半数の騎士達から冷たい視線を浴びせられ黙り込んでいきました。


「どうだ――王の印が認められた本物の遺言状だぞ。これで妾の話が信じるに値すると理解してくれたか?」


 フローゼ姫がそう告げると、平民出身の騎士達は皆謝罪の言葉と共にその場に跪きました。

 これフローゼ姫が説得したと言うより、王の残した遺言状の効果ですね。

 アランが羊皮紙をまだ見ていない騎士に手渡していると、横からそれを奪おうと手を差し出す者が現れます。既に人目に付いた以上は奪って燃やしても意味をなさないのに――よくやりますね。

 僕はその伸ばされた手を、爪を飛ばして切り裂きます。

 その騎士は伸ばした手を羊皮紙の代わりに鮮血で染め上げます。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁー」


 誰が大声を出して喚いたのかと思えば、オルケンじゃないですか。

 貴族派の重鎮の家柄で4男坊でしたか。

 今皆の邪魔をすれば余計に貴族派への疑念を生むというのに懲りないですね。

 まぁ小男と違って切断した訳では無いので早めに治療すれば治るでしょう。

 僕はジャンプすると泣き喚くオルケンの首に手刀を当てて意識を刈り取りました。

 貴族派に由縁のある騎士は二の足を踏むのを恐れ静観しています。

 一方で平民出身の騎士達からは冷ややかな視線を浴びせられていました。


 さて、これで貴族派以外の騎士の信用は取り戻しましたね。

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