第160話想いでの花壇

 ヴワァーン、ヴワァーン、と銅鑼が鳴らされると装備も中途半端に兵が慌てた様子で飛び出してきました。騎士達は良く連携も取れていましたが、ここの兵は統率されて無いですね。

 なんでこんな兵が城の守備に就いているんでしょう。

 足を切り裂かれ倒れ伏している騎士を見ながら穴に監禁してきた騎士と見比べます。

 すると――。


「我等にこんな事をしてただで済むと思うな! 我等は貴族の子弟だぞ!」


 僕に呆気なく倒された騎士が吠えます。

 騎士団の中にも貴族の子弟はいますが、中には平民から努力して騎士になった者も多くいます。城を守っている兵達は家の力で兵になり一番安全な城の守りに就いていると言う訳ですか。


 実力も無いのにカッコいい事ですね。


 烏合の衆が相手なら余裕で奪還も出来そ うです。

 次々と城から飛び出してきた兵は、馬車の前に倒れ伏した仲間の騎士に目をくれると一斉に抜剣し出しますが馬車とはまだ距離があります。

 何をやっているんでしょう?

 さっさと掛かってくればいいのに。

 モタモタしている動きに首を傾げていると――背後の城壁の上に弓兵がずらりと並び矢をこちらに向けて引き絞ってきました。

 挟み撃ちが出来るタイミングを見計らって居たようです。


「子猫ちゃん、尖塔からもどんどん出てきたぞ!」

「お城からもですわ」

「数が多いなら集まった所でまとめて倒せばいいんですよ」

「はは――そんな考えは子猫ちゃんで無ければ思いつかんぞ」


 フローゼ姫が乾いた笑い声をあげ僕の作戦を支持してくれます。

 そろそろいい頃合いですかね?


「フローゼ姫も同意してくれましたし、ちょっと威力の強い魔法を放ちますよ!」

「――ちょ、妾は同意など」


 僕はフローゼ姫が言い切る前に掌に集めた魔力を一気に解き放ちます。

 『ゴゴゴグワァーンドバゴゴーン』耳をつんざく轟音をあげ眩く光り輝く稲妻が豪雨の様に降り注ぎます。最近分かった事ですが、僕の放つ範囲魔法は放った本人の周辺には影響を及ぼしません。

 城壁の上にいた弓兵、城から飛び出してきた兵達に見境無く稲妻が降り注ぎ、光りの雨が収まった時には馬車の周囲で立っている者は誰も居ませんでした。

 兵達は一瞬の事で声を出して懺悔する事も、嗚咽を漏らす事も出来ないまま肉体を焼かれ絶命しました。周囲には肉の焼けた匂いだけが漂っています。


「子猫ちゃん、やりすぎだ!」

「――うっ」


 あまりの惨劇にフローゼ姫から苦情が飛んできます。エリッサちゃんはここまで酷い死体を見た事が無かった様で、瞳をそれらから逸らしますが匂いを嗅ぐと吐き出してしまいました。

 手っ取り早く倒せたのはいいのですが、魔法の制御が出来ないのは厳しいですね。

 後でミカちゃんからも叱られてしまいそうです。

 ミカちゃんに叱られる自分を想像し、暗い気持ちになっていると城から新たな兵が盾を構えて飛び出してきました。

 今の魔法見ていなかったんですかね?

 盾なんて何の役にも立たないと言うのに――。

 僕が再度掌に魔力を集めていると、隣のフローゼ姫から声が掛かりました。


「子猫ちゃん、ここは妾に任せてはもらえないだろうか?」


 ここに来てまだ敵に情けを掛けるつもりですかね。

 アンドレア王国の王族を処刑した者達だというのに……。

 それでも任せろと言われれば僕に否はありません。

 集めた魔力は結界に切り替え、全員に結界を掛けます。

 当然、最近仲間になった馬さんにもです。

 盾を構えた兵達は馬車の手前で陣形を変え、馬車を取り囲みました。

 この兵達、やる気満々じゃないですか!

 周囲に漂う仲間の死臭に嫌な顔すら見せながらも馬車を取り囲み、盾に隠れ覗き穴から僕達の様子を窺いながら、警告を発してきます。


「既に周囲は囲んだ。無駄な抵抗は止めて大人しく投降しろ!」


 はぁ、準備が遅れて慌てて飛び出してきたからどうやって第一陣が全滅したのか分っていないようですね。

 僕なら同じ魔法をもう一度放つ所ですが――フローゼ姫は。


「周囲に倒れ伏して死んでいる兵をよく見ろ! 大人しく投降するのはお前達だ」

「なっ――フローゼ・アンドレア!」


 飛び出してきた兵の中にもフローゼ姫を知っている者が居たようです。


「お尋ね者のフローゼだ! 捕まえれば昇格間違いなしだぞ!」

「「「おぉ!」」」


 フローゼ姫が目立つ行動を取ったお蔭で、兵の指揮は一気に上がってしまいました。

 盾の覗き窓からぎらついた瞳を覗かせ兵達は自らを鼓舞し始めます。


 はぁ、これなら僕が戦えば良かったんじゃないですかね。

 でもフローゼ姫がやると言うなら、静観するしかないですね。

 兵とフローゼ姫が睨み合っていると、気分の優れない面持ちで顔をあげたエリッサちゃんが、外の様子を改めて視界に入れ絶句します。


「っ――お母さまが、お母さまが大切にしていた花壇が……」


 その言葉に吊られ僕も以前来た時に歩いた花壇に目を向けます。

 すると、以前は綺麗に咲き誇っていた花畑の様な花壇は踏み荒らされ、その面影が無くなっています。

 この城に押し寄せた時に地理的に詳しくない兵達が散開して進んだのでしょうね。

 元々林の中と比べれば身を隠す程の高さもありません。

 身を隠すために使ったので無ければ――城を取り囲む為に広範囲に散開したと考えれば合点もいきます。


 さっきまで馬車の中にいたエリッサちゃんは馬車から飛び降りると、現在僕達を囲む為に花壇を踏み荒らしている兵を睨むように見渡します。

 そして――掌を大空に向け高く掲げると、魔力を纏い溜まった魔力を一気に放出しました。『ゴゴゴグワァーン』僕には劣りますが、それでも以前ここで僕がお手本として放ったサンダーと同等の威力を持った光の帯が降り注ぎ――その光は花壇を現在も踏み荒らしている兵達へと襲い掛かります。雷の性質から伝わるものがあれば伝播していきます。兵は皆、剣を抜きその先を馬車へ向けていたために雷の範囲は花壇に居た兵だけに止まらず、僕達を囲んでいた兵にも伝わっていきました。

 雷が収まった時、僕達の周りで立っている者は幸い剣を抜いていなかった木製の盾を持っている者だけでした。

 花壇でまともにサンダーを食らった兵の体からは煙が立ちのぼりますが、馬車の周囲の兵は感電して気を失っているだけの様です。

 魔法を放ったエリッサちゃんは、感情のままに魔法を行使した事で魔力を使い果たし膝から頽れてしまいました。

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