第157話城門突破

 子爵領の現状を元騎士団から聞いた僕達は、フローゼ姫に深い穴を掘ってもらいそこに騎士達を監禁し、馬車に乗り込みました。


「それにしても騎士さん達驚かれていましたわね」

「それはそうだろう。今まで剣技一筋だった妾が、あれ程の大魔法を放ったのだ。既に妾の使う魔法は亡くなった最高魔導師のエルドーラ殿を凌いでおるからな」


 前にそんな人が居たと言っていましたね。

 僕が最初に見せたサンダーですら使う事が出来なかった最高魔導師がいたとかなんとか――。

 今の僕からすると何が最高なのかさっぱり分かりませんけどね。

 僕達は作戦らしい策も無く、旅人を装って門を突破する事にしました。

 入門の時点でフローゼ姫がバレたらそこで装うのはおしまい。

 万一、気づかれなければ、そのまま城まで突き進む事にします。

 フローゼ姫同様、エリッサちゃんも隠し通路の出口を知らなかった為、これしかありません。尚、ミカちゃんは途中で下ろし怪我を負っている兵達にハイヒールを掛け救い出す手筈になっています。

 その他のメンバーは城門突破組です。

 僕1人でも十分ですが、城の内部の事は分かりませんからね。


 そうこうしている内にも馬車は西門に到着します。

 通常、王都や旧オードレイク領を結ぶ街道は正門に繋がっている為にこの西門に馬車がやって来る事は珍しいのですが……サースドレインの門兵は全て捕らえられ監禁されている為、地理に詳しくない不慣れな者が門兵に付いています。

 そういった情報も元騎士団の連中から仕入れていました。

 問題は、王都からやってきたそれらの兵が、フローゼ姫を見知っているかです。

 通常であれば、旅人と説明しても信じて貰えず取り調べの対象に上がりそうなものですが、誰何の後で入場料を支払っただけですんなり通る事が出来ました。

 貴族が乗るような馬車で旅をしている一行。

 そう考えると、門兵は今の情勢で有利な貴族。

 国家転覆を謀った貴族派の人間が乗っていると判断された様で、馬車の内部も確認すらされませんでした。


「まさかこんなに呆気なく入場出来るとは――」

「うちの守衛さんではありえませんわね」

「何事もなく通れて良かったにゃ」

「さぁ、このまま真っ直ぐ城に向かいますよ!」

「アーン!」


 兵の宿舎は王城に行く途中にあります。

 そこまでミカちゃんが御者をして、そこからはフローゼ姫に変ります。

 お城の鳴りを潜め強行突破が決まっています。

 街の中は活気がなく、露店も鳴りを潜め通行人は王都からやって来た兵士の姿が目立っていました。


「とてもわたくしの育った街とは思えませんわね」

「仕方なかろう。先日落城したばかりなのだ」


 前にミカちゃんとデートした路地を通っても、お店は閉まっていて以前の面影はありません。

 ミカちゃんがピンクの可愛いワンピースを着て歩けば、その可愛らしさから温かな視線を送ってくれていた人も今は歩いていません。

 いい街だったのに残念ですね。

 戦争に負けるという事はこういう事なんですね。

 僕は人の世で戦いに敗れるという事で何を無くすのか、この時にはっきりと理解しました。そして――それなら負けなければいい。

 そんな思いを新たに抱きます。


「じゃ後は頼むにゃ」

「ミカ殿こそ、くれぐれも気を付けてくれ」

「ミカさん、兵達をよろしくお願いしますわ」

「ミカちゃん、何も無いと思うけど、念の為に結界を掛けておくね」


 ミカちゃんと兵宿舎の近くで別れた僕達は、そのまま路地を真っ直ぐ駆けます。

 ここからはもう子爵城を挟み込む尖塔が見えていて、中央に円錐型の石を積み上げて築いた城も次第に見えてきます。手前の木造式の門は破壊されていて見る影もありません。また周囲の掘は土砂で埋め尽くされていて攻城戦を行った後がくっきりと残されていました。


「――酷い」

「城を守っていた兵は最後まで門を開けなかったのだな」


 最後まで抵抗したからこそ、貴族派側は邪魔な堀を埋めてから城門を破壊したんですね。僕達なら堀を凍らせ門は吹き飛ばしていますね。

 あれ――堀を埋めていないだけで同じですね。

 前に来た時には必ず門の両脇に立っていた守衛さんの姿はなく、代わりに門の内側で焚火で暖を取っている騎士が5人いました。

 馬車で堂々と乗り付けたんですから気づかれない訳がありません。


「この城に何用だ!」


 馬車は直ぐに取り囲まれ用件を尋ねられますが、その中の騎士が直ぐにフローゼ姫に気づき信じられないとでも言うように瞳を大きく見開き絶句しています。

 まぁバレますよね。

 王都から来ている騎士の叙任式には必ず王族が立ち会っているのですから。

 正気を取り戻し口を開けかけた所で、僕は馬車から飛び出し暖を取っていた騎士達の足を切り裂きます。僕に続いて子狐さんも爪を立て騎士に飛びかかります。

 僕が4人倒し、子狐さんも1人倒した所で尖塔から監視していた兵が異変に気付き備え付けられている銅鑼を強く鳴らし始めました。


さぁ、ここからが本番ですね!

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