第156話消えた2人

 武器を捨てた者を甚振る趣味は僕にもありません。

 フローゼ姫の前に跪く騎士を用心深く見つめながら、フローゼ姫に合流します。


「死んだ者は居ないな?」


 問いかけに首肯する騎士を見つめ、フローゼ姫はホッと吐息を漏らします。

 同じ釜の飯を食った元仲間だから信用しているんでしょうけれど、僕達は今日初めて会ったばかりです。フローゼ姫の様にすんなりと信じる事は出来ません。

 武器は捨てましたが、縄で縛って拘束した訳でも無ければ、手枷をはめた訳でも無いですからね。

 それでも小男が最初に語った内容を聞かない訳にはいきません。

 僕達が騎士達に近づくと、エリッサちゃんが震える声音で尋ねます。


「先程そちらの騎士様がおっしゃった話は――父が居なかったというのは本当なのでしょうか?」


 フローゼ姫の見解を聞いて城主である子爵様も騎士団長も逃げるような事はしないと断言していましたからね。

 ここに居ないという事は、信じていた者に裏切られた様な気分になります。

 この街が貴族派に抵抗し、その猛攻でどれだけの被害が出たのかは分かりませんが、そんな状況下で責任者が不在と聞けば――生存を安堵する気持ちがあっても憤慨する気持ちもまた湧きます。

 まだ年若い少女が怯えながらも声を振り絞り尋ねれば、それを無視する事は騎士には出来なかったようです。先頭の騎士が僕達の様子を窺うようにしながら返答に応じます。


「ハンドレイク将軍の命令で我等はハイネ騎士団長とサースドレイン子爵の行方を追っていました。市壁を攻略し城内に入ってみれば、指揮を執っていたのは白髪の執事と城中警備責任者だったと聞いております」

「――そんなっ」

「そんな筈は――何かの間違いでは無いのか!」


 騎士の答えた内容が許容出来るものでは無かった為に、エリッサちゃんもフローゼ姫も声を荒げ言葉を吐き出しますが……。


「本当で御座います!」


 最初に答えた騎士の隣にいた者からも、それが真実だと告げられます。

 さらに――。


「我等もそんな御仁だとは思ってはおりませんでした。だからこそ余計躍起になって捜索に力を注いでいたのでございます」


 なるほどね……どうりで伝令に走られてからやって来るまでの時間が短かった訳です。騎士精神が宿っている者として逃げるという愚を犯した者を許せなかったという訳ですか。

 でもそうなると変ですね。

 あの2人が本当に居ないとなると、いったい何処に?

 あの温厚そうな執事さんに聞けば分かりますかね……。


「それでその指揮を執っていた執事さんは何処に?」


 フローゼ姫とエリッサちゃんが黙ってしまったので、代わりに僕が尋ねます。

 すると――。


「「猫が喋った……」」


 僕が口を開き喋った姿が見えた騎士達から似た様な声が漏れます。

 はぁ、この反応も最近慣れてきましたが、今はそんな事を説明している場合ではありませんよ。絶句している騎士達を見てミカちゃんが代わってくれます。


「子猫ちゃんの事はこの際置いておくにゃ! 今は執事さんの行方にゃ」


 かわいらしい獣人の少女に尋ねられ、若干頬が緩んだ騎士達は捕らえた者は城の地下牢に、サースドレイン側の負傷者と兵は兵宿舎に詰め込まれていると素直に説明してくれました。

 負傷者を治療出来る魔法師もおらず、劣悪な環境で監禁されていると聞き僕達は子爵城と街の奪還に乗り出す事を決めます。

 死者の数を聞いたエリッサちゃんは泣き崩れ、フローゼ姫は眉をしかめ宙を見つめています。きっと亡くなった兵の中にはミカちゃんと僕が知っている人もいた事でしょう。僕達がやり場のない怒りに憤っていると、そんな空気をぶち壊す発言が背後から聞こえてきます――。


「たかが一兵卒が数百人死んだ位で何を落ち込んでいるんだ? この世は強いもの、金のある者が統治しているのだ。その礎になれたなら本望であろう」


 はぁ。誰です?

 こんな奴を治療したのは――。

 あ、ミカちゃんですね。

 ミカちゃんの善意で両腕まで直してもらった小男が調子にのって暴言を吐きました。フローゼ姫は苦々しい思いで本当に嫌そうに小男を睨み、エリッサちゃんでさえ瞳を濡らしながら小男に厳しい視線を向けています。


「ミカちゃん、こいつ治す価値無かったんじゃ?」

「子猫ちゃん――私も失敗はするにゃ」


 ミカちゃんの言葉を聞き、僕は一瞬のうちに小男の懐まで入り込むと先程切断した箇所と全く同じ場所に爪を立て切断しました。

 小男は大声で喚き散らしますが、そんなの知りませんよ。

 死なれたら困るんで血飛沫が飛ぶ切断箇所をファイアで燃やします。

 焚火で何度か火を点けているんで、この位の制御なら僕にも出来るんですよ!

 ちなみに僕は嫌いな人に回復魔法なんて掛けませんよ。

 嫌いな奴の患部を舐めるなんて御免被ります。

 血は止まりましたが、焼かれた熱さに苦悶の表情を浮かべ嗚咽を漏らしていますがこれ以上の治療はしませんよ。弱者はこんな扱い当然だって自分で言っていたんですからね!

 あまりにも煩いので、後ろから後頭部に蹴りを入れて気絶させました。


 さて聞きたい話も聞いた事ですし、次にいきましょうかね!


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