第150話王の遺言

 扉を破壊した先には広い部屋と、16個の似たような扉が配置されてあります。

 この扉のどれか一つが王城へと通じるとして、他はどこに繋がっているのか。

 フローゼ姫に聞いても分からないでしょうから、僕が一つ一つ破壊するしか無いかな、そう考えていると、ミカちゃんから声が掛かります。


「子猫ちゃん待つにゃ。この扉――鍵は掛かっていないにゃ」


 すっかり破壊する気で魔力を掌に纏わせましたが、残念ですね。そんな必要は無かった様です。

 女性陣が一つ一つ扉を開けていく間、僕と子狐さんは万一を考えて広い部屋の中央で魔法を待機状態で止めおきます。

 しかし何事も無く16個ある扉は全て開き切りました。

 扉は1つを残し全てが階段で上階へと繋がっていますが、1つだけ更に奥へと通じている様です。階段を駆け上がりまた降りてくるのも面倒なので、最初にその部屋から探索する事に決まります。僕を先頭に進みますが直ぐに行き止まりになり、そこに一風変わったレリーフ模様の扉がありました。


 僕がその扉を破壊しようと手を翳すと――。


「子猫ちゃん! 待て、待ってくれ!」


 フローゼ姫の焦った様な甲高い声に遮られ、魔法行使を中断させられます。

 僕が掌の魔力を霧散させると、フローゼ姫は扉の前に立ち尽くしその模様をしばらく見つめた後――腰に差した王より譲り受けた剣をその鍵穴に差し込みます。


「何だ。結局壊すんじゃないですか!」


 僕がそう告げると、レリーフに形造られた竜の紋章が光り輝き剣を指した鍵穴から割れる様に、ズズズズズッとひとりでに左右に開いていきました。


「凄いにゃ。勝手に開いたにゃ」

「これは魔道具ですの?」

「アーン」


 こんな大掛かりな魔道具はエルフの大樹以来ですよ。

 壊さなくて良かったですね。


 僕がホッと胸を撫でおろしていると、フローゼ姫が一人で先に扉を潜り中へ入っていきます。僕達もそれに続いて中に入ると――中には大きな石棺の様な箱とその周囲には年代物と分かる武具の数々が飾ってありました。


「ふっはははははははははは――」


 突然、笑い出したフローゼ姫を皆が訝しげな面持ちで見ていると、笑いの張本人が泣き出しそうな声音で言葉を漏らします。


「ここを見ろ――」


 言われるがままに、指示された場所をみるとそこには羊皮紙が3枚。

 宛名が書かれてある物が2通。

 もう1通はこの箱に金貨を収めた時に付けた出納帳でした。

 出納帳の見出しには、保障制度金とありこの資金が国民から集めた税金である事が示されてありました。宛名が書かれてある1つにはフローゼ姫に、もう一つには第一騎士団団長ボルグ・ハイネ宛となっていました。


 国王はフローゼ姫が必ずこの地に戻る事を想定し、彼女に託したのでしょうか?


 僕達はジッとフローゼ姫の動向を窺っていました。

 しばらく自分宛の羊皮紙を読んでいたフローゼ姫の瞳からは次第に大粒の涙が溢れてきます。流石にそんな姿を凝視する程無粋ではありません。

 皆、フローゼ姫から視線を逸らし思いおもいに周囲に飾られている武具を眺めていると、羊皮紙を読み終えたフローゼ姫から声を掛けられます。


「皆、すまなかった」

「別に気にしていませんわ」

「そうにゃ。気にしていないにゃ」

「それでその紙には何て書いてあったんです?」


 涙に濡れた瞳で謝罪してきたフローゼ姫を慰める様に2人が返事をしていますが、今は手紙の中身が気になりますよね?


 当然、空気を読まない僕が尋ねます。


 すると、涙を鼻で啜った後でポツリ、ポツリと話し始めました。


「手紙には妾の生存を信じているという事と、隠し通路の存在がバレなかったならばこの資金を国民の為に使ってくれと――。後は皇国がこの国に攻め入ったタイミングから貴族派の手引きによるものだろうといった予測。民から預かったこの金を奪われる訳にはいかぬと、逃げ出さず大人しく掴まると言った事が書いてあった。こんな大量の金貨をもって逃げる訳にもいかず、かと言ってもし王族が逃げ出せば皇国は逃げた隠し通路を躍起になって探すだろう。そうなれば民が治めた血税も見つかり、皇国に奪われる。それを阻止する為にも逃げ出す事は出来ないと――」


 王が逃げ出さなかった理由を話している最中で、またフローゼ姫が泣き出しますが、今度は目を逸らすわけにはいきません。


 まだ話は続いているのですから。


「父は妾に何をさせようと言うのだろうな。この手紙には妾が失踪して死んだといった考えは全く感じられないのだ。何がフローゼよ剣の修行は程々にしろだ。自分が妾に剣を与えた癖に――何が世継ぎを作るなら晩婚では駄目だぞだ。妾に来た見合いを全て破り捨てた父がそれを言うのか――何が……しあわせになれよだ。妾1人残し先に、わぁぁぁぁぁぁぁん」


 フローゼ姫が声を出して泣いたのを初めて僕等は見ました。


 この場所が皇国側、貴族派の人間にばれなかった理由はわかりました。

 このお金があれば他国から傭兵を雇い入れ、国を取り返す事も可能かもしれませんが、それは許されない事ですね。王の遺言では民の為に使えとありますから。

 それだとどうやって国を取り戻すんでしょう。

 やはり僕達が戦争に参加しなければいけませんかね……。


 まずはフローゼ姫が泣き止むのを待つとしましょうか。

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