第104話冤罪ですにゃ

 ミカちゃん達が牢屋に運ばれてから、朝まで僕と子狐さんは地上の換気窓から中の様子を探っていましたが、薬が良く効いていた為か? 旅の疲れからか? 3人が起きる事はありませんでした。


 鉄格子の外ではテーブルと椅子が2脚ずつ置いてあり、今はその1脚に監視役の騎士が鎧を脱ぎ、制服姿のまま座っていました。


 しばらく観察していると、もう1人の監視役が食事をお盆に載せて運んできました。


「流石に徹夜は堪えるな~交代まで後2時間だが飯を貰ってきたぜ」


「そりゃ~助かる。捕り物のお陰で夜食は抜きだったからな」


「それにしてもまだ眠ったままなのか……本当にこの少女達が賊なのか?」


「さぁ~な、上からのお達しで拘束の指示が出ているんだ。俺達はそれに従うしかあるまい?」


「違いねぇ~」


 スープを飲み、パンを齧りながらミカちゃん達の話をしています。


 この人達は雇われの騎士の様で、今回の件を詳しくは知らない様ですね。


 スープから漂う濃厚なチーズともクリームとも思える香ばしい香りが、換気窓から排出され僕と子狐さんの鼻孔をくすぐります。美味しそうな食事ですね。僕達もこんな騒動に巻き込まれなかったら今頃は朝食を食べていた筈なんですが……。


 匂いに釣られたのか?


 ミカちゃんの鼻がピクピクと動きます。


 あ、そろそろミカちゃんも起きますね。まさか牢屋で寝ている姿を上から覗き見る事になるとは、思いもしませんでしたが……。


 そんな事を考えていると、ミカちゃんの瞼が動き、薄い青の瞳が現れました。


「子猫ちゃん、何か美味しそうな匂いがするにゃ!」


 ミカちゃん、寝ぼけていますね。


 僕が隣に居ると思って、声を掛けたようです。


「おっと、獣人が目を覚ましたぞ! 念の為、誰か応援を呼んでこい!」


 ミカちゃんが声を発してしまった為に、監視役に気づかれてしまいました。


 仲間を呼びに階段を駆け上がっていきます。

 

 僕はミカちゃんには通じて、普通の人には分らない言葉で現状を伝えます。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」


 ミカちゃんは一瞬、驚いたように瞳を大きく開きますが、直ぐに閉じて寝たふりをします。


「朝から近所の猫か? 煩いな……」


 上手く誤魔化せた様です。


 昨晩からの流れを一通りミカちゃんに伝えると、ミカちゃんは上の換気窓を見つめ僕と目が合うと、ウインクしようとしてまた両目を瞑っています。中々上手く出来る様になりませんね。でもこんな時です。僕の怒りが収まっていくのを感じます。


 ミカちゃんの意見も聞きたかったのですが、流石に監視役が見ている前で言葉を伝え合う事は出来ません。


 階段の上の扉が、ドカッ、と大きく開かれる音がしてその後、数人の鎧を着用した騎士が降りてきました。頭部以外はフル装備です。兜を被ると室内では死角が増えて動き難いですからね。宿屋では知らない場所だった事もあり兜も着用していたようですが……。


「賊の1人が起きたって?」


「あぁ、獣人が起きたと思ったんだが……寝言を言っただけだった様だ」


「今なら水ぶっ掛けりゃ起きるんじゃないか?」


 先頭の騎士が目配せで指示すると、一人だけ階段を駆け上がっていき、少しすると木の桶に水を蓄えゆっくりと下りてきました。


「流石に朝一番の水は冷てぇ~ぜ」


「だろうな。だがこれで嫌でも起きるだろうよ」


 騎士達は用心しながら、鉄格子の端についている鍵を開けてドアを開きます。中に入るなり柄杓ひしゃくで桶の水を掬うとそれをミカちゃん、エリッサちゃん、フローゼ姫の3人に順番に顔に掛けていきました。


「ぶっ、何をするにゃ!」


「つっ、冷たいですわ」


「――なっ、何事だ!」


 流石に薬の効果も切れていた為に、皆起きざるを得ません。


 ミカちゃんは起きていましたから、普通に水を掛けられた事への苦情を、エリッサちゃんとフローゼ姫は水を掛けられ驚き叩きおきました。


「ほぅ、中々可愛い娘達じゃないか。本当に賊なのか?」


「お前、そんな事だから飲み屋のねぇちゃんに騙されるんだぞ」


 監視役の2人がそんな世間話をしていますが、後ろの騎士だけは違ったようです。キツイ口調でミカちゃん達に対し尋問を始めました。


「お前達が昨晩、宿屋の主人を脅し無理に宿泊した賊で間違いないな!」


 はっ? 


 何言っているんでしょう?


 ちゃんとお金を支払った正当な客ですよ!


 僕達は……。


「賊なんて知らないにゃ! 私達はちゃんとお金を支払ったにゃ!」


 ミカちゃんがいち早く答弁をしますが、


「嘘を付くな! この街で獣人を部屋にあげる宿屋など1件も無いわ! 我等が到着した際、ベッドで寝ておったのが何よりの証拠だ!」


 なるほど……最初から騙すつもりで、ミカちゃんが獣人だから騙しやすいと踏んで嵌めたんですね。


「ミカ殿、この騎士達は何を言っておるのだ?」


「私達はちゃんと代金を支払い、宿泊いたしましたわ」


 フローゼ姫とエリッサちゃんも援護してくれますが……。


「嘘を申すな! 宿屋の主人の訴えで我等が駆けつけた時には、主人が困って助けを求めた客の冒険者に怪我を負わせておったではないか!」


「――はっ?」


「そんな……」


「それは女性の部屋に無断で深夜侵入しようとしたからにゃ!」


 エリッサちゃん、フローゼ姫は現状詳しい話は伝えてないので、何を言われているのか分らず困惑していますが、ミカちゃんには伝えてあります。


「人族の2人が知らぬという事は、冒険者をやったのは獣人の娘、お前だな」


 牢屋の前にいた騎士全員が抜剣して、その刃先をミカちゃんに向けます。


 これまずいですね。


 さっさと騎士を倒した方がいいでしょうか?

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