第82話砂漠の民の事情
ギルドで教えて貰った宿は、街の中央より右側にあります。
大通りをしばらく歩き、3階建の建物を右に曲がると破壊された門の近くに宿はありました。
今は大木で補強して有るようですが、どうしたんでしょう?
宿は2階建てで、入り口はやはり暖簾でした。
暖簾を潜ると――。
「いらっしゃい! 見かけない顔だけど旅人かい?」
太った温和そうなおばさんが、元気な声音で対応してくれます。
「そうにゃ、他所の国から来たにゃ。3日程泊れるかにゃ?」
ミカちゃんが答えると、
「あぁ、勿論。大歓迎さ! ここは他所からの客は少ないからね」
女将さんは人当たりも良く、綺麗な宿なのに……やはり砂漠の真ん中にあるからですかね?
他のお客さんの気配がありません。
ミカちゃんがカウンターに金貨を置きながら、女将さんに尋ねます。
「そこの門が壊れていたにゃ。何かあったのかにゃ?」
早速情報収集とは、ミカちゃんも中々やりますね!
「あぁ。1週間前にビックウッドローズの襲撃があってね……せっかく立てた柵もあの有様だよ」
ビックウッドローズって何でしょう?
「みゃぁ~?」
ミカちゃんに聞いてくれるように頼みます。
「そのビック何とかってどんな奴にゃ?」
「奴というか……魔物だね。この砂漠で一番大きいAランクの魔物さね。昼間は砂の中に潜って隠れているんだが、夜になると這い出てきて人の集落を襲う恐ろしい化け物だよ」
ここに来る時に遭った魔物よりも強い魔物が、この街を襲撃している様ですね。
それから街を守る為に、木々が必要だったんでしょうか?
「もしかすると、街壁を大木で覆っているのは――」
フローゼ姫が確信部分の話を聞きだします。
「あぁ~近くの森から木々を伐採して打ち込めば、ビックウッドローズも手が出せないって話だったんだけどね……人手を使って打ち込んだものの、あの有様って訳さ」
なるほど……大木で囲ってガードしたけど無意味に終わったんですね。
何の為にエルフを敵に回してまで、森の木を伐採したのか分りませんね。
一通り女将さんに情報を聞いた僕達は、3人が泊れる大部屋のキーを貰い2階にあがります。
夕食は後1時間後で無いと、出せないらしいのでそれまで部屋で暇を潰します。
ちなみにここでは水が貴重品なので、大きな桶に水を入れ後で部屋に運ぶといわれました。
子爵領の宿では、水はサービスでした。
でもここでは桶1杯で銀貨1枚も取られました。
「砂漠はお水が高いにゃ……」
毎日体を洗っていたら、あっという間にお金が無くなりそうです。
「妾もこんな体験は初めてだぞ」
「私もですわ……」
「アーン」
フローゼ姫もエリッサちゃんも桶に汲んだ水で体を洗うのは初めてで、野営の時は川の水で体を洗っていたそうです。
エリッサちゃんは、いつもお城にあるお風呂に入っていましたしね。
僕とミカちゃんだけ経験者です。
「それにしても、初日から情報が手に入るとは思わなかったな」
「秘密でも何でも無かったですわね」
「魔物の仕業にゃ……」
そうですね。まさかAランクの魔物から街を守る為に、エルフの森から木々を伐採していたとは……。
エルフに悪い事をしたのは確かですが……私利私欲とかじゃ無く、街を守る為に仕方無くと考えると、悪即斬という訳にはいきませんね。
「困ったにゃ。エルフの力を借りたいのも多分、魔物退治にゃ」
きっとそうなんでしょうね……。
僕達がその魔物を倒す! と格好良く言えればいいのですが……。
見た事も無い魔物で、しかもオーガと同じAランクが相手では。
安請け合いは出来かねますね。
「これで木々を売り払ったとか、ここの王が私腹を肥やす為とかなら武力で言い聞かせる事も可能だったが……」
フローゼ姫は、他国に干渉をしないとか言いながら、密かにそんな事を考えていたんですね!
「伐採とそれにまつわる虐殺は、決して褒められた行為ではありませんが、元々仲が悪い間柄でしたからね――。街の民を生かす為の悪事となるとまた話は違ってきますわね」
僕達はなんともすっきりしない気分のまま、食事の用意を知らされるまで各々物思いに耽ります。
悪と正義だけで簡単に判断出来れば楽です。
でもそれぞれに止むを得ない事情があると……どこまで譲歩したらいいのか難しい所ですね。
「理由はどうあれ身勝手に森林伐採を行い、エルフを虐殺した事を有耶無耶には出来ないと妾は思うぞ」
確かに……。
自分が良ければ他者を殺めていいのかと言われれば――否ですからね。
ミカちゃんに散々諭された僕が言えた台詞ではありませんが……。
この後、食事の時間となり皆で揃って砂漠料理と言うものを食べましたが、お世辞にも美味しいと言える物ではありませんでした。
全部平らげたのはフローゼ姫だけです。
あんな辛い料理よく食べられますね。
ミカちゃん、エリッサちゃんでさえ残していましたよ。
フローゼ姫は、「ここの料理は大人好みの味付けだな」と言っていましたが、気温が高いのに辛い料理を食べたので舌がヒリヒリしますよ!
ここの料理の殆どが辛い香辛料を使用している為、口に合わない僕達はここの滞在中は苦労しそうです。
食事を終えると、既に夜も更け、街も人通りが消え静寂が支配します。
昼間の疲れもあり、早々に僕達は就寝したのですが、深夜に木を突き破る轟音が街中に響き渡り、僕達は叩き起こされました。
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