第81話砂漠の国

 休憩を取り終えた僕達は、砂漠の国を目指します。


 まだ魔石は残っていますが、僕達が持っているお金が使えるか分りません。


 街に入るには入場料を取られます。


 これはエリッサちゃんの子爵領でも同じです。


 そんな理由からお金の代用として、魔石を残す事にしました。


 幸いにもあの後、魔物と遭遇しなかった為に、予定より少し遅れましたが、日が暮れる前に巨大な木で作られた柵に囲まれた街が見えてきます。


 何であんなに木々を使って柵を立てているのでしょう?


 以前ミカちゃんが生活していた村にも、木の柵はありました。


 でもここは柵の1つに木を丸々1本使っています。


「凄いにゃ! こんなに木を使っていたらエルフの森が無くなるにゃ」


 そうでした。


 砂漠の民達が何故、エルフを襲い木々を奪ったのか?


 何故、弱体したエルフの力が必要なのか?


 それを調べに来たのでした。


 まず1つ目の何故エルフの森から木々を伐採したのかは、これで判明しました。


 ただ木を用いた理由までは分りませんが……。


 僕の知っている街の壁は、岩や石で築かれていました。


 木々を使った柵は村だけです。


 街に近づくと、その木々の大きさが良くわかります。


 土にどうやってこれだけの木々を埋めたのか、その技法もわかりません。


 でも高さは少なくとも20mはあります。


 これは伯爵の街や子爵様の街の壁の倍です。


 その威容に圧倒されながら、門まで到着すると当然の様に門番の兵に誰何されました。


「むっ、見かけない格好をしているな! 何処から来た? この国になんの用だ?」


 頭には白い布を巻き、服も鎧を付けておらず白い布を纏った門番がいぶかしみながら尋ねてきます。


「妾達は旅をしている冒険者だ! この砂漠に足を踏み入れ迷っておった所に馬の足跡を見つけ、人の集落があると予想し来たのだが……」


 実際に冒険者は、ミカちゃんだけですが……。


 ミカちゃんが前に出て、Cランクのプレートを見せると――。


「うん? アンドレア国サースドレインの街所属? 何処だ?」


 ミカちゃんのプレートに記載されている国名と登録した街の名前に心当たりの無い門番が首を傾げています。


「ここから北東にある国にゃ!」


 ミカちゃんが千年狐さんから聞いた場所の方角を教えます。


「ほぅ、我等はこの周辺国しか知らぬから分らぬが、その様な国もあるのだな。よし、入って良いぞ。ただし入場料は冒険者としての依頼を受けないなら銀貨1枚。冒険者として活動するなら無料だ」


「このお金しか持ってないにゃ。これは使えるかにゃ?」


 ミカちゃんが手持ちの硬貨を見せると――。


「どこの貨幣だこりゃ? 鋳潰さないと使い物にならんぞ」


 渋い表情で門番が答えます。


 それなら仕方ありませんね。


「これが使えないなら冒険者として依頼を受けるにゃ!」


「それだと遅くとも2日以内には依頼を受けた証明書をここまで届けてくれ。もし届出が無ければ――街の兵に拘束されるから気をつけてな」


「分ったにゃ」


 ミカちゃんが首肯すると門から通され、僕達は砂漠の国へと入れました。


 この街が首都になるらしく、砂漠が領地だと門番のおじさんが教えてくれました。


 こんな食物の育たない砂漠が領地とか……誰得なんでしょう?


 そう思っている時期が僕にもありました。


 この砂漠では黒い油が沢山取れるらしく、それを国外に輸出して生計を立てているのだそうです。


 僕が嗅いだ事のある、あの液体ですね。


 良く燃える液体です。


 僕達は大きな通りを真っ直ぐに進みます。


 目的の建物は直ぐに見つかりました。


 ただ子爵領の冒険者ギルドはウエスタンドアでしたが、ここのギルドは布の扉です。


 暖簾に近いでしょうか?


 中に入ると2階と1階が吹き抜けになっていて、風通しが良いように2階の窓が開いています。


 それでも室内は暑いですが……。


「いらっしゃい。この変じゃ見かけない顔だね」


 カウンターに座る、中年のおばさんから声をかけられます。


「そうにゃ。他所の国から旅をしているにゃ」


 ミカちゃんがそう言って、ギルドプレートを見せます。


 ギルドプレートは他の国でも有効だと、登録時に教えてもらっています。


「へぇ~見かけによらないとはこの事だね。その歳でCランクかい」


 ミカちゃんのプレートを見たおばさんが驚いています。


「そうにゃ。それで依頼を受けたいのと、ここでお金を少し下ろしたいにゃ。大丈夫かにゃ?」


 ミカちゃんからプレートを預かったおばさんが、魔石にそれを翳すと魔石に文字が写った様です。


「へぇ~こんな大金を預けてあるのかい。それでいくら下ろすんだい? 流石に全額の金貨17枚は勘弁して欲しいが……」


 ミカちゃんの口座には、金貨が17枚貯金してありました。


 ここの魔石は正確でしたね。


「皆で1週間、宿に泊まれればいいにゃ。いくらあれば足りるにゃ?」


 おばさんは、僕達全員を見回し、


「そうだね~3人と2匹なら食事込みで金貨1枚は掛からないよ」


「それなら金貨1枚だけ下ろすにゃ」


 ミカちゃんが金貨を受け取り、カードを魔石に翳すと17から16に数字が変わりました。


「それで依頼だが、この変はスコーピオンとビックワームの討伐が殆どだね。他の弱いのはこの街の新人が請け負ってくれているからさ」


 どうやら僕達が受けられる依頼は、スコーピオンとビックワームだけの様です。


「ならその両方を受けるにゃ!」


 自信満々にミカちゃんが告げます。


「そ、そうかい? 結構Cランクでもキツイ魔物だよ?」


 討伐して欲しいのか、して欲しくないのかどっちなんですかね?


「大丈夫にゃ! ここに来るまでに鋏の魔物と大きなミミズは倒したにゃ」


 ミカちゃんがそう言って魔物から切り取った、触手と鋏の一部を見せます。


 すると――。


「へぇ~ただのCランクじゃないって事かい? スコーピオンでBランク。ビックワームでCランクなんだけどね。ただ……討伐証明はスコーピオンで尻尾の先。ビックワームで目玉だからそれでは達成にならないからね」


 明らかに倒した事が分っても、部位を間違えたので今回は無効です。


 ミカちゃんは残念そうな面持ちを浮かべますが、これからですよ!


「みゃぁ~!」


 僕が励ますと――。


「そうにゃ! 次に間違わなければいいにゃ!」


 元気になってくれます。


「それでこれが依頼書だよ。ビックワームが最低1体で銀貨10枚。スコーピオンが最低1体で銀貨15枚だ。ここの国では金貨1枚が銀貨20枚だから間違わない様にね」


「スコーピオンを5体倒したらどうなるにゃ?」


 僕達の戦力で1体だけなんて事はありえませんからね。


 ミカちゃんが尋ねると――。


「そうさね……普通は1体倒すだけでも難しいんだが、倒せるならスコーピオンが1体追加で銀貨12枚。ビックワームが銀貨8枚って所かね」


 Bランクの魔物の割に安いですね。


 国が違うとこうまで違うものなのでしょうか……。


 結局、僕達は2種類の魔物の討伐を受け、教えて貰った宿へと向かいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る