第59話隠し扉

 静まり返ったフロアを、僕達は駆け回ります。


 おかしいですね……誰もいません。


 他の建物にでもいるのでしょうか?


「おかしいにゃ。お城なのにメイドさんもいないにゃ」


「みゃぁ~」


 ミカちゃんの言う通りです。エリッサちゃんの所でも、1フロアに5人はいます。


 僕達が見たメイドは、さっき厨房で食事をしていたおばさん1人だけです。


 子爵様より伯爵の方が偉いって聞きました。


 その伯爵の城に、若いメイドが1人も居ないなどありえるのでしょうか?


 兵達も逃げ出し、何というか……もぬけの殻という言葉がピッタリです。


 何処かに隠し扉でもあるのでしょうか?


 この城で人に会ったのは1階の兵達と、2階の厨房だけです。


 もう一度、2階に行ってみましょう。


 扉を開いて中に入ると、食事を終えて後片付けをしていました。


 頭の上に白い帽子を被ったおじさんに尋ねます。


「上の階に行ってみたにゃ。でも伯爵様は居なかったにゃ」


「はぁ? そんな事はないだろうよ」


 おじさんは首をかしげています。


「おい、伯爵様は何処かに出かけるとか何か聞いてるか?」


 おじさんが、後片付けを手伝っていた年配のメイドさんに聞いてくれます。でも――。


「さぁ、若い子達が上にいる筈なんだけどね……下には下りてきていないから、何処かの部屋に居ると思うよ」


 おばさんも知らないみたいです。


「分りましたにゃ。もっと探してみますにゃ」


 僕とミカちゃんはおじさん達にお礼を行って、また上の階を目指します。


 下の階には下りて来ていないと言っていたので、探せば見つかるでしょう。


 ひと部屋ずつ慎重に探します。


 3階の机とソファーが置いてある部屋に入ると、血の匂いがします。


「みゃぁ~」


「子猫ちゃんも気づいたにゃ。ここで誰かが怪我か殺されたにゃ」


 でも血は綺麗に拭取られています。


 犬には負けますが、それでも人間よりは嗅覚が優れています。


「ここじゃないにゃ。他を探すにゃ」


 今の部屋で一番豪華な椅子は、伯爵の座る椅子なのでしょう。ミカちゃんが部屋を出る前に、僕はその匂いを覚えました。


「みゃぁ~、みゃぁ~みゃぁ~」


「さすが子猫ちゃんにゃ」


 ミカちゃんに、伯爵の匂いの事を話すと、目をぱちくりとさせて褒めてくれます。


 ミカちゃんに褒めて貰えてご満悦な僕が、先頭になって匂いの行方を捜索しました。

 匂いは浴室まで続いています。


 誰も人が居ないのに、湯船は温かいです。


 ここの匂いが一番濃いのですが……。


「みゃぁ~」


「ここも違ったにゃ……」


 僕達は浴室から匂いを辿って、本が沢山並んでいる部屋に入ります。


 でもここにも人はいません。


「みゃぁ~」


「う~ん、いないにゃ――次にいくにゃ」


 僕達はまた4階まで来ました。


 このフロアはさっき全部屋確認済みです。何か見落としたのでしょうか?


 ベッドの置いてある部屋に入ります。


 匂いは……薄いです。


 多分、ここでも無さそうです。


 6部屋あった部屋全て見て回りましたが、結局見つかりません。


「困ったにゃ」


「みゃぁ~」


 ミカちゃんに同意して僕は考えます。


 匂いが一番濃かったのは浴室です。


「みゃぁ~!」


 僕がミカちゃんに浴室が怪しいと伝えます。


「でもあそこには誰も居なかったにゃ」


 僕は、お婆さんが見ていたテレビを思い出します。テレビでは壁が回って、その裏から人が出入りしていました。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」


「子猫ちゃん、詳しいにゃ。でも浴室にそんなものあったかにゃ?」


 匂いが充満していただけかも知れません。


 でも、万一があります。


 僕はミカちゃんに、もう一度浴室を探すようにお願いします。


「みゃぁ~」


「分ったにゃ。もう一度行ってみるにゃ」


 僕達は走ります。


 3階にある浴室まで戻ると、匂いの断片を細かく嗅ぎわけます。


 ここは伯爵の他に、香水を付けた女性も使用するのでしょうか?


 女性の匂いもします。


 あれ?


 湯船の方からは香水の匂いはしません。


 何故でしょう。


 香水の匂いが脱衣所から浴槽の間で途切れています。


 伯爵の体でも洗ってあげたのでしょうか?


 僕は壁を注視します。


 お婆さんの見ていたテレビでは、壁が怪しかったです。

 

 僕は壁に手を翳し――爪を飛ばしました。


「子猫ちゃん、一体なにをするにゃ」


 バン、と浴室の密閉された空間に音が響きます。


 ただの壁だった様です。


 更に僕は脱衣所の近くの壁目掛け、爪をどんどん飛ばしていきます。


「子猫ちゃん、何もないにゃ」


 ミカちゃんがそう言葉を漏らした瞬間――ごわぁーんと変な音が1箇所から鳴りました。


 見つけました。多分、ここです。


「みゃぁ~!」


「えっ、ここから逃げたにゃ?」


 ミカちゃんは、尚も半信半疑のようです。


 僕は音がおかしかった場所に、また手を翳すと、門に使用した魔法を放ちました。


 黒いもやが壁に浸透する様に入っていくと……ボロボロと崩れだします。


 刹那――ゴォン、と鈍い音が鳴り響くと、壁が消え去りました。


 壁があった奥には、通路があります。


 香水の匂いがプンプン漂ってきました。


「みゃぁ~!」


「凄いにゃ! 見つけたにゃ!」


 ミカちゃんが僕を抱き上げ、頬ずりしてくれます。


 さぁ! 


 捕まえますよ!


 僕達は隠してあった通路に侵入し、一気に駆け出しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る