第45話ミカちゃん参戦
街壁の上は風が強く、風音が、ごゎーっ、と全身に吹き付けてきます。薄着では肌寒いその壁の上に立ち、サースドレイン子爵が、伯爵軍の指揮官とおぼしき男を見下ろし、この包囲の理由について問いかけます。
「この包囲は何事か!」
「私奴は、オードレイク伯爵に此度の包囲殲滅戦を任されました。イグナイザーと申します。伯爵様に有りもしない嫌疑をかけ、貶めようとする子爵殿を討伐するように命を受けてまいりました。大人しくその首を差し出せば、街の市民には手は出さないと約束しましょう。ですが抵抗すれば、皆殺しにして構わぬと伯爵様より指示されております」
イグナイザーと名乗った40半ばで目つきの鋭い悪人顔の男は、街壁の上にいる子爵様を冷ややかな目線で見ると、頬には含み笑いを堪え、そうのたまいました。
「何を馬鹿な事を、伯爵が村人を虐殺したのは事実では無いか!」
伯爵が自分の罪を捏造だと言い、その仕返しに自分の首と差し出せと言われて、はいそうですか。とは言う筈もありません。
当然、徹底抗戦の構えです。でも、この街の門の前にはどこから集めてきたのか、千にも及ぶ軍隊が集まっています。普通、各貴族の持つ兵力はせいぜい規模によっても変動はありますが、三百人がいい所です。千という数は、国境を守る国境警備の軍隊とほぼ同数です。城攻めは防御側の3倍の人数で当たれとは昔の兵法でありましたが、まさにその数を用意された事になります。流石に子爵様の顔色も悪くなりますが、諦める訳にはいきません。
「大人しく首を差し出す様子も無いようですね。なら始めましょうか」
イグナイザーは、愉快そうに笑いながら、ゲームの開始を告げるような軽口でそう言い、後ろに控えていた騎士、弓兵達に攻撃を開始するように命令します。
「おのれ……伯爵め!」
子爵様は恨み言を吐きますが、直ぐに下からは弓兵の放った矢が飛んで来ます。
「子爵様、ここは我等が、子爵様はお下がり下さい」
全身に鎧を纏った騎士の1人がそう言って子爵様の背中を押し、後ろに置いてある矢から身を防ぐ戸板の方へと誘います。
子爵様の体は怒りで震えていますが、既に戦いの火蓋は切られてしまいました。この兵力差でどこまで持ちこたえられるのか子爵様が思案していると――背後の石を積んで築いた階段から、ぴょんぴょんと、跳ねる様に駆けて来る少女の姿を認めます。
その少女の肩には猫が、そして少女に遅れて愛娘のエリッサちゃんまでもがこの街壁へと昇ってきました。
「お前達、ここは危険だ。城へ戻っていなさい!」
子爵が困り顔で心配してそう言うと……。
「大丈夫ですにゃ。私達には子猫ちゃんも付いていますにゃ」
子爵が何を言っているのかと不思議に思っていると、猫が手を娘2人に翳し、その数秒後には娘達の体は青白い光に包まれました。
「これで敵の矢が当っても怪我をしないにゃ」
そうです。僕の持つ唯一の防御魔法でもある結界です。これが強力なのは以前にオークや、ゴブリンを相手にした時に分っていました。
「みゃぁ~!」
「これで大丈夫って子猫ちゃんも言っていますにゃ」
子爵様は驚いて声も出せません。
そんなに大口を開けていたら矢が刺さっちゃいますよ。僕は子爵様にも結界魔法を掛けてあげます。
子爵様は自分の両手を見つめ、体が青白く輝いている事に驚きながらもミカちゃんに問います。
「これは、本当に結界魔法なのか?」
「そうですにゃ。子猫ちゃんの得意な魔法の一つにゃ」
ミカちゃんが可愛い唇を吊り上げ、片目を瞑ろうとして失敗し、両目を瞑りながらそういいました。
「お父様、ここは私達に任せてください」
「そうにゃ。私達が付いているにゃ」
そう言って、僕達3人は矢が飛び交う壁の外側へと歩いて行きました。
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