第44話伯爵の暴挙
生存した騎士の報告では、伯爵の屋敷に着くと最初は丁重に持て成されたフェルブスターさんでしたが、話が進むにつれオードレイク伯爵の顔色が真っ赤に染まっていきます。王からの命令書を見せると遂に決壊が壊れたダムの様にオードレイク伯爵の口から罵声が飛び『これは子爵が捏造した陰謀である』そう言って、周囲に待機していた騎士に命じ――フェルブスターさんを拘束しようとした所に、護衛の騎士が割って入り、逃走する過程で鎧を着用していないフォルブスターさんが負傷。命からがら子爵領に戻ってきました。
「更に詳細な話は、フェルブスターが目を覚ました時に聞くとして……なんという事だ。陛下の命を遂行しようとした使者を撃つなど、最早乱心したとしか思えん」
普段は温厚で目元が下がっている子爵様も、この伯爵の暴挙には怒りを禁じえず、騎士からの報告の最中から憤りで体を震わせていました。貴族は王を支える柱であると信じる子爵からすれば、王の意に背き、村人を虐殺した挙句に、王の命令を遂行しようとした使者をも害したのですから。子爵様の怒りも当然です。
「直ぐに王都へ出向き、陛下に事の詳細を伝えるのだ! これ以上の猶予は出来ぬ」
そう言って、騎士に王への文を持たせ旅立たせました。
事態が動いたのは、子爵様が王へ文を送った翌日の事。
急に、街の教会にある鐘が街中に響き渡りました。子爵城にもその鐘の音が響いてきます。
「いったい何事だ!」
子爵様が騎士に問いただすと――。
「ただ今、正門から伝令が来まして……その伝令が言うには、このサースドレインの街を、オードレイク伯爵の軍隊が取り囲んでいるとの報告が入りました。門は全て閉門し、対応を子爵様にお伺いするようにと……」
「なんだと!」
前回にも増して、温厚な顔つきは険しく変わり、腹立たしさからか顔色は青いです。
「直ぐに街壁の上に弓兵を待機させろ! 門に攻撃を仕掛けてきたら反撃にでよと皆に伝えるのだ」
子爵様の命を受け、騎士は足早に去っていきます。
「それにしても、まさか伯爵がここまで愚かだったとは……」
「お父様、どう成されたのでしょうか? 街の方が慌しいご様子ですが」
「伯爵が、国王に背き謀反を起した。私もこれから支度をし、街壁の上で指揮を取る。エリッサは、この城で大人しくしているんだよ」
エリッサちゃんを宥めて、子爵様は護衛の騎士に手伝ってもらい鎧を着込んでいきます。これまでこの子爵城は魔物から攻め込まれた事はあっても、人の軍に攻め込まれた事は無いらしく、城の中は重苦しい空気が漂ってきていました。
「エリッサちゃん、何があったのかにゃ」
城の中の空気を感じ取り、ミカちゃんが問うと、エリッサちゃんは体を小刻みに震わせながら、
「この街を伯爵の軍が取り囲んでいるらしいのです」
そう怯えた目つきで語ったのでした。
「なんで伯爵がこの街を襲うにゃ」
「さぁ、私にも分りませんわ。でもお父様が――武装して街壁で指揮を取るとおっしゃいました」
「勝てるのかにゃ?」
「分りません。爵位では1つの差ですが……伯爵がどれ程軍備に予算を割いていたのかも分らないのです」
そう俯き、震えながら語るエリッサちゃんを見て、ミカちゃんと僕は決心します。
「もし戦うなら、私達も戦うにゃ!」
そう言ってミカちゃんは、細く雪の様に白い腕で力瘤を作り『だから心配は要らないにゃ』とエリッサちゃんを元気付けたのでした。
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