第13話ミカ

私は、生まれた時から親の顔を知りません。


孤児院の表玄関に、薄い麻布で寒くないように――確りと巻かれて置き去りになっていたそうです。


その年は、飢饉があって食べる事に困窮した親が最後の望みを託して、


置いていったのだろう。


そう孤児院の院長先生は教えてくれました。


獣人の孤児は私だけ――。


子供心にも、獣人と人の区別はあって……。


5歳位まではずっと1人きりでした。


虐められた訳ではないですが、仲間外れは小さな私にはとても苦しい出来事でした。


この村の村長さんが、孤児院にやってくるまでに、私が会話した子は精々2人だけ。


それも本当に些細な会話だけです。


皆が外で遊んでいる中で、私だけ食堂のテーブルに座って、皆の様子を窓越しに見ていました。


その様子を、お爺さんは院長室の窓から見ていて……不憫に思ってかは、今では分りませんが引き取る意思を固めた様でした。


何で私なの?


どうして人の村なのに?


猫獣人の私が、村長さんの養子なの?


将来的に、獣人が村長では村人が付いて来ないのでは?


何度も、何度も――。


お爺さんに聞こうと思った。


でも、答えを聞くのが怖くて――。


重圧に押し潰されそうな私は。


聞けませんでした。


答えを聞いて、唯の同情からだよ。


そう言われるのが怖くて、私はずっと聞けなかった。


でも、そのお爺さんは、先日の盗賊襲撃の際に真っ先に殺されました。


私が丘の上から村へ走って戻っている時に、後ろから剣で切られていました。


両親と言う人が居ない私にも、


本当の両親がしてくれるような、愛情を注いでくれた、


優しいお爺さんだったのに……。


連れて行かないで!


私から全てを奪わないで!


そう、思っていた私の大きな瞳が湿っている事に気づき――。


私は瞼を開けました。


目の前には、私を盗賊から救ってくれた小さな、子猫ちゃんがオロオロしながら私の事を見つめていました。


泣いているのを見られていたのが照れ臭くて、思わず俯いてしまいました。


「みゃ~」


一歩踏み出し、下を向いてしまっている私の、


瞼に付いた塩辛い水滴を舐め取ってくれました。


私は、そのまま子猫ちゃん両腕で強く抱き締めます。


もう、私に残された家族はこの子猫ちゃんだけだから。


「1人にはしないでにゃ」


「にゃ~にゃ~!」


子猫ちゃんの言葉が分らなくて残念ですが、きっと同意してくれたんだと――。

その頃の私には思えました。

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