VRエロゲーやってたら異世界に転生したので、美少女魔王を奴隷化する ~クロスアウト・セイバー~

仁科朝丸/ファミ通文庫

第一部

第一話 事故死と救済


 ……?

 目を覚ますと、俺は暗闇の中にいた。

 周りをぐるりと見回しても、全てが闇に閉ざされていて何も見えない。唯一、自分の体だけがうっすらと光を放っているが、そのこと自体が不可解だった。


「気がつきましたかー?」


 どことなく間延びした、妙齢の女性の声だった。

 目の前に白い光が浮かび上がり、やがてその光は一人の女の姿を成した。


 神秘的な女だった。新雪を思わせる輝きを帯びた銀髪、透き通るように真っ白な肌。顔立ちはCGで描画したのかと疑ってしまうほどに整っていて、身にまとった白いローブも世俗離れしていた。

 ギリシャ神話か何かに出てくる神様みたいだ、と思う。


「はい。わたし、女神ですからー」


 にっこりと笑って、女は答えた。


「……え? 俺、口に出してた?」


「あっ、いえいえー。皆さん同じ感想をお持ちになるものですから」


「なるほど。それで俺が考えていることもわかったと」


「はい。いくらあなたが愚かで哀れな死を遂げたからといっても、決してあなたが思考の読みやすい単純な人間だと言っているわけではありませんよー」


 邪気のない笑顔のままで、自称女神は答えた。もしかしてフォローのつもりなのか。


 ……ん?


「待ってくれ。俺が何を遂げたって?」


「愚かで哀れで、大変悲惨な死を遂げましたー」


 さっきより一言多くないか。


「そんなはずはない。俺は死ぬようなことは何もしてないぞ。確か、えーと……そうだ、ゲームをプレイしてただけだ」


 そう、ゲーム──『クロスアウト・セイバー』を。


 VRに対応した最新の成人向けゲーム……いわゆるエロゲーだ。

 まるで自分がゲーム世界に入り込んだかのような臨場感と、あらゆるキャラクターを脱がしたり押し倒したりアレコレできるゲームデザインが好評を博し、ソフトの生産が追いつかないほどの超人気作となっている。

 純粋なゲームジャンルとしてはリアルタイムのアクションRPGで、俺はラクシャルという名のボスキャラと戦っていたはずだ。


「だんだん思い出してきたぞ……俺はゲームをしてて、それで──」


 俺は言葉を切った。思い当たることが、ひとつだけあったからだ。


「…………プレイエリアの外に、出た」


 多くのVRゲームには『プレイエリア』と呼ばれる直方体の範囲が設定されている。

 どちらかといえば、ゲームの中の話ではなく、現実の問題だ。


 例えばゲーム中では広大な草原に立っていたとしても、実際にゲームをプレイするのはたいてい部屋の中だ。プレイヤーがそれを忘れて部屋の中で自由に動き回れば、棚やら壁やらに激突することになる。

 そうした危険を避けるために、あらかじめプレイエリアを決めておくのだが──あろうことか、戦闘に熱中した俺は、敵の攻撃を避けようとしてプレイエリアの外へ飛び出してしまったのだ。


「そうです。その結果、あなたは壁に頭を激突して即死しましたー。よっぽど打ち所が悪かったんでしょうねー」


 女神の声には、相変わらず邪気はないが遠慮もない。


「しかも、生前のあなたがどんな格好だったか覚えていますかー?」


「え?」


「『いつエロシーンに突入してもいいように』なんて奇天烈な理由で、下半身はすっぽんぽんだったじゃないですかー」


 俺は絶句した。

 そうだった。胸ポケットには三枚重ねのティッシュまで詰め込んでいたはずだ。


「あなたが死んだ直後、激突音を聞いたご家族がすぐに駆けつけたんですけど、あなたを発見した瞬間のご様子といったらもう、あらゆる意味で非常にいたたまれない感じで……葬儀でも、親戚の皆さんは笑いをこらえるので必死だったんですよー」


「……俺もいたたまれんわ」


 膝から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。

 自分が死んだってだけでもショックなのに、死後にそんな赤っ恥まで晒す羽目になるなんて、二重の精神的ダメージだ。


「最低だ……最低すぎる。過去最大級の生き恥だ……」


「大丈夫ですよ、もう死んでますからー」


「いっそ死にたい……」


「大丈夫ですよ、もう死んでますからー」


「…………」


 俺は黙って女神を睨みつけた。なんなんだこいつは。


「大丈夫です、今更恥ずかしがることなんてありませんよー。そもそも、あなたの人生自体が恥さらしみたいなものじゃありませんかー」


 女神の励ましが、俺の胸に深々と突き刺さる。


「……俺の人生が何だって?」


「あなたの生涯は確認させてもらいましたー。30歳を過ぎてなお恋人もお友達も職歴もなく、散発的に日雇いのバイトを繰り返し、かといって実家に生活費を入れるでもなくバイト代はエッチな本やゲームの購入費にあてて、家族とはほとんど口も利かない毎日。死因も含めて、非生産的な人生のお手本みたいだったと思いますー」


 俺は、もしかして目の前の女神からケンカを売られているのだろうか。

 真意を測りかねてまじまじと女神の顔を覗き込むと、少し照れたようなスマイルが返ってくる。

 素だわ、こいつ。


 俺の胸中には気づかない様子で、女神は母性の象徴のような豊かな胸に手を当て、明るい声で続ける。


「申し遅れましたー。わたしは『管理神』のエナといいますー。あなたのように悲惨な人生を送った方を救済するのがお仕事なんですー」


「悲惨な人生? いや、俺は毎日の食事にも困ってなかったし、そこまで悲惨だとは……」


 決して満足いく人生だったとは言えないが、世界規模で見れば俺より悲惨な奴なんていくらでもいるだろう。

 しかし、女神──エナは、ゆっくりと首を横に振った。


「その人の人生が幸せだったかどうかを決めるのは、その人自身にしかできないことですー。たとえどんなに貧しくても、病気がちでも、本人が『私は幸せだった』と思っていれば、他人にそれを否定することはできないんですよー」


「……それはそうかもな」


「そういう意味で、あなたの人生は、本当に欲しいものが何一つ手に入らないまま恥辱と苦労だけを積み重ねて果てた、まさにゴミみたいな人生だったと言えるでしょうー」


「お前はいちいち人の神経を逆撫でしないと喋れないのか?」


 俺は皮肉を込めて訊ねたが、エナはお構いなしに喋り続ける。


「そこでご提案ですがー、あなたには、あのゲームの中の世界に転生する権利を差し上げたいと思いますー。ある程度なら、特典もつけちゃいますよー」


「……あのゲーム? クロスアウト・セイバーの?」


 それが事実なら、とても魅力的な提案だった。

 まだ発売から間もないゲームだが、俺は裏ルートで発売日の前日に入手して以降、寝食を忘れて攻略に没頭していた。世界規模でも最速攻略組の一人だったと自負している。

 もしもあのゲームの世界に生まれ変われたら、何だって思いのままにできる自信があった。

 特典というのも気になる。訊ねると、次のような返答があった。


「お好みのプレイスタイルに特化したステータスとスキルを、設定してあげますー。最強の剣士になりたいなら剣術特化、大金持ちになりたいなら商才特化といった感じですねー」


 なるほど。それなら、このゲームを知り尽くしている俺にとって、選択肢はひとつしかない。


「テイムに特化したキャラにしてくれ」


 テイム──敵キャラクターを手なずけて、自分のしもべにするシステム。

 このゲームの一番の目玉であり、肝でもある部分だ。


「わかりましたー。じゃあ、ステータスとスキルを設定しますねー」


 エナが深くうなずくと、一瞬、俺の体が青白い光に包まれた。

 目の前に、ゲームの中で見た覚えのあるウィンドウが表示される。


【????????】

性別:男

種族:人間

レベル:0

ジョブ:なし

HP:4/4

MP:1/1

EP:1/1

筋力:1

体力:2

素早さ:1

知力:2

幸運度:1

性技:65535

パッシヴスキル:なし

アクティヴスキル:【クロスアウト・セイバー】


 名前がハテナ一色になっているが、とりあえずこれが俺のステータスらしい。

 レベルが最低値の1を下回っているのは、まだ俺が転生していないからか。

 それは置いといて、目を引く点はふたつ。


「テイム特化のために『性技』パラメーターを最大値にしましたー。これで、あなたが一撫ですればどんな女の子も、甘い声をあげて崩れ落ちること間違いなしですよー」


 そう、まずはそこだ。

 クロスアウト・セイバーには『性技』という、エロゲーならではのパラメーターが存在する。

 読んで字のごとく性的な技量を表した数値で、これさえ高ければ童貞だろうが魔法使いだろうが思うさま女を鳴かせることができるという、身も蓋もないシロモノだ。


 この時点で察しがつくかもしれないが、このゲームで敵キャラをテイムするには、戦闘中に敵を愛撫してEPエクスタシー・ポイントをゼロにする──『イかせる』とも言うが──必要がある。

 要約すると、敵の肉体に女の悦びをねっとり教え込んで、虜にすれば自動的に仲間にできるというわけだ。


「このスキルは?」


 俺はアクティヴスキル欄を指して訊ねた。

 そこにはひとつだけ【クロスアウト・セイバー】というスキルが表示されている。

 ゲーム名と同じ名称だが、初めて見るスキルだ。


「テイム特化の一環として付与した、超レアスキルですー。このスキルを使えば、武器の一振りで、相手の服だけを必ず破壊することができるんですよー」


「必ず?」


「はい、必ずですー。布の服でもオリハルコンの鎧でも一刀両断。それでいてその下の柔肌には傷一つつかないんですー」


「そいつは便利だな」


 敵をテイムするには愛撫の必要があるわけだが、それにはまず敵の服を脱がさなければならない。

 だが、服を脱がせようとしている間、こちらは完全に無防備になるので、よほどの実力差がない限り、服を脱がせようとしている間に攻撃を受けて死ぬ。しかも、鎧などの重装備を身につけている相手だと、当然脱がせにくい。

 このスキルなら、そうした問題を解決できるというわけだ。


「エナ。そのスキルは素手でも使えるのか?」


「使えますよー? 有効射程は3メートルくらいですね。指をまっすぐ伸ばして、手刀で切りつける感じにすれば──」



「【クロスアウト・セイバー】ッ!!」



 俺は説明中のエナに向けて、勢いよく手刀を振り下ろした。

 その瞬間──ビリビリと激しい音を立てて、エナの服がちぎれ飛ぶ。


「……えっ」


 陶磁器のように白く、豊かな曲線で形作られた裸体が露わになる。

 その素肌に、さっと赤みがさした。


「きゃああああっ!? な、ななっ、何するんですかぁー!?」


 エナは腕で抱くようにして胸を隠し、脚をぴっちり閉じて悲鳴をあげた。


「ただのテストだ。実際に使えるかどうか、試しておかないとな」


「あー、なるほどー……って、試していいなんて言ってないですよー!? 女神にこんなことする転生者さん、前代未聞ですー!」


「いちいち騒ぐな。次は性技のテストだ」


 俺は両手を広げて、裸のエナに抱きついた。

 エナはすっかり赤面し、目尻には涙が浮かんでいる。


「ま、待ってくださいー! 悪い冗談ですよねー?」


「待てと言われて待つくらいなら、最初からこんなことするか。さっさとその邪魔な手をどけて、足を開け」


「イヤに決まってるじゃないですかーっ!? ……ひゃうっ!」


 エナの背中に回していた手で、腰から尻にかけて撫で下ろすと、エナは肩を跳ねさせて反応した。

 そのまま両手で尻をわしづかみにして揉みしだくと、断続的に甘い声が漏れる。


「ひゃっ……や、やめ……んっ、ふ、ぁぁっ……」


「どうした? まだ尻を触ってるだけだぞ」


「そ、そうですけどぉ、今のあなたに触れられると……あ、うっ!」


 エナの尻はまるでパン生地のように柔らかくて、肌が手のひらに吸いついてくる。じつに良い感じの肉付きだ。

 エナの体から力が抜けつつあるのを見て、俺はたわわに揺れる胸の谷間に頭からダイブした。

 ふにょん、とマシュマロのような柔らかさに顔面を受け止められる。


「あ……っ!」


 エナが小さく声をあげる。俺も内心で感嘆の声をあげていた。

 さっき揉んだ尻も充分に柔らかかったが、おっぱいの柔らかさはそれを凌駕している。実際に触るのは初めてだが、こんなにいいものだとは思わなかった。

 石鹸のような甘い香りに鼻腔をくすぐられながら、白い柔肌に舌を這わせた。


「あぁんっ! ひやっ、あっ、あっあっ、やぁぁっ……」


 こちらの舌が膨らみの頂点に近づくほどに、エナの声は甘く高く変化していく。

 こりこりに尖った突起を舌先で弾くと、ひときわ大きな嬌声があがった。


「あぁああぁぁっ!」


 背筋を反らせて快感に打ち振るえると、エナは限界に達したように崩れ落ちた。

 仰向けになっても形の崩れない豊かな双丘を小刻みに震わせ、だらしなく弛緩した両脚はO字を描くように開いている。その付け根は、透明の※液でぐっしょりと濡れそぼっていた。

 エナの裸体に覆い被さって、俺は耳元で囁いてやる。


「本当はこうされたくて、あのステータスとスキルを俺にくれたんだろう? いやらしい神様だ」


「そ……そんな……私は、あなたの希望通りにしただけでー……」


「そうか。だったら、ここでやめるか?」


 試しに提案すると、こちらを見返すエナの目尻に涙が浮かんだ。


「ひ、ひどいです……わたし、あなたのためを思って、善意で転生のお話をご用意したのにー……」


 あれだけ毒を吐いておいて善意も何もないもんだ。

 まあ、天然でやってるのはわかっているんだが。


「だからお返しに気持ちよくしてやろうとしたんだが、お気に召さないなら仕方ないな」


「……やめないで、くださいー……」


「え? なんだって?」


 わざと聞こえない振りで聞き返すと、エナの顔が羞恥の紅に染まった。


「で、ですから、やめないでって……」


「それじゃわからん。誰のどこに誰の何をどうして欲しいのか、ハッキリ言葉にしろ」


 まだいじめられそうだと判断し、更なる羞恥行為を要求する。

 エナは桜色の唇をぶるぶる震わせて、しばしの間、葛藤していた。

 しかし、やがて──意を決したように自らの股間に手を伸ばし、無毛のスリ※トを指でくぱぁと拡げて、声を限りに叫んだ。



「わ、私のー……いやらしい私のここに、あなたの硬いのを突っ込んで、ずぼずぼしてくださいっ!!」



 ……本当に言った。神様なのに。


「いや、まさか本当に言うとは……ちょっと引いたわ」


「ひどい! ひどいですー! こんなに頑張ったのにー!?」


 号泣するエナ。

 いや、驚きこそしたものの、征服欲が満たされた気分だ。俺がこの女にここまで言わせたのだと思うと、ぞくぞくするような高揚感が体に満ちていく。


「いいだろう。淫乱で貪欲な女神様に、捧げ物をくれてやる」


 実際、もう俺も収まりがつかなくなっている。俺はベルトの金具を外し、硬く屹立したモノを……。

 モノを…………。


「……あれ?」


 俺が首をひねると、エナの視線も俺の腰あたりに向いた。

 まずい。


「いや、待ってくれ。これは何かの間違い──」


「うわあああん! わたしを脱がせて弄って恥ずかしいこと言わせておいて、なんで勃ってないんですかー! 転生者さんの不能! 転生者さんのEDーーっ!」


「しばくぞ、お前……」


 突如着せられた濡れ衣に、静かな怒りを込めて言い返す。

 泣きじゃくっていたエナはやがて少し落ち着きを取り戻した様子で、「あっ」と何かに気づいた声をあげた。


「……そうでした。今のあなたは魂だけの存在なので、何かに触れることはできても、生殖行為はできないんですー……」


「肉体がなきゃ無理ってことか。じゃあここまでだな。早いとこ転生させてくれ」


「ええっ!? わ、私の体の疼きはどうすればいいんですかー!?」


「ひとりでどうにかしろ。こっちも暇じゃないんだ。さっさと転生させろ」


 膝を叩いて急かすと、エナは涙を拭いながら身を起こした。


「うう……じゃあ、転生したあなたが大きくなったら会いに行きますー……それまでは我慢します……」


「何年先の話だ? ……お前がそれでいいならいいんだが」


「じゃあ、送りますよー? ……あなたの新しき生に、幸多からんことを……!」


 お決まりの台詞なのか、急に定型文のような口調でエナが唱える。直後、俺の体は光に包まれた。

 急速に意識が遠のいていく──。


   # # #


 強烈な光が瞼に突き刺さる。


「出てきた! 産まれたぞ!」


 誰かの声がすぐ近くで聞こえた。


「セルマ、よくやった。産まれたんだ! 俺たちの子だ!」


 大きな手に、自分の体を軽々と持ち上げられている。

 ──俺は、転生したのか? どうにか力を込めて、瞼をこじ開ける。


 狭い小屋の中だった。5、6人の大人たちが、横たわる1人の女を取り囲むように立っている。

 俺を抱き上げてはしゃいでいる20歳前後の男以外は、全員女だった。


 状況から判断するに、この男が俺の父親で、寝ているのが母親。他の連中はお産の手伝いをしてくれたんだろう。おかげで無事に誕生できたわけで、もし口が利けたら礼を言いたいところだ。


「あなた……私にも、その子を見せて……」


 弱々しい声で母親が言う。俺の体はひょいと母親の懐に預けられた。

 何よりも愛しいものを扱うように、母が俺の頭を優しく撫でてくる。少しくすぐったい。


「その子、じゃなくて名前は決めておいただろう? 男の子だから、ヴァインだな。いいか。お前の名はヴァイン・リノスだ」


 父が俺を見下ろして言った。

 ヴァイン・リノス……それが、俺の新しい名前。

 今日からこの世界の住人として、この2人の子として、俺は新たな人生を踏み出すのか──。



「その子供を世に放ってはならん」



 しわがれた声。

 どうにか首を動かしてそちらを見ると、魔術師のようなローブを纏った老婆が、数人の男たちを従えて立っていた。


「ババ様。どういうことです?」


「占いに出たのじゃ。その子供は、世に混乱をもたらす災厄となる。決して世に放ってはならぬ存在じゃとな」


(……何を言い出すんだ、この婆さん)


 占いなんか誰が信じるか……と思ったが、クロスアウト・セイバーの世界観は中世ヨーロッパ風のファンタジーをベースにしている。科学考証も何もない時代だ。

 ひどく嫌な予感がする。


「待ってください! 私たちの子が、そんな育ち方をするわけが……うわっ!」


 父は俺と母をかばうように立ちふさがったが、たちまち男たちに取り押さえられてしまった。

 別の男の手が伸びてきて、俺を母の腕から引きはがす。抵抗しようとしたが、赤ん坊の体では何もできなかった。


「ヴァイン!」


 母が俺の名を呼ぶ。

 弁明すらできない、この状況は……まずすぎる。まさか、このまま処刑されるなんてことは……。


「安心せい、殺しはせぬ。殺せば村が祟られよう。地下の倉にでも閉じこめて、そこで一生を過ごしてもらうだけじゃ」


 ちょうどいいタイミングで婆さんが答えてくれた……が、その内容はまったく安心できるものではなかった。

 俺を一生、閉じこめておくだって?


(これじゃ前世よりひどい有様だ。エナ、今すぐ助けに来い……エナぁっ!!)


 俺は心の中で絶叫したが、その叫びは誰にも届かなかった。



 以後、俺は18年間にわたって村の地下室に幽閉されることとなった。

 その生活が終わりを告げたのは、ちょうど18歳の誕生日のことだった……。

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