オーケストラは星を唄う

柴見流一郎

00:僕らのシューティングスター

 失敗したのだ、と彼は打ちのめされた。

 草原が広がる地平線は白い空に溶け、音は足元にそよぐ風がなでた草花たちのこすれあう音だけだった。


 人を裏切り、仲間を裏切り、世界をも裏切った彼にもたらされた結末は、至極当然の報いとなったのかもしれない。彼はしくじった。無数の企みの果てにたどり着くはずだった世界は、こんなにも。


 振り返ると、宿敵はただ無言のまま立っていた。いや、待っていた。彼が、突きつけられたこの現実から受けるショックを受け止めきれるまで。


 相も変わらず、何故君は。何故この世界は。


「決着を、つけましょう」


 そう言って宿敵は、握りしめた拳に黄金の揺らめきを放つ炎をともした。

 戦う。そうだ、戦わなければならない。

 戦わなければ、この世界を否定しなくては。


「……決着、か」


 腕をリラックスさせ、指をそろえて手刀の形を作る。

 まだ、自分に望みがあるのなら。

 せめてこの宿敵との決着を。

 これまで歩んだ裏切りの末路を、裏切り者のままで完結したい。汚名を、不可侵の領域へと変える。

 だが、そんなことすら許されないだろう。

 だって、この世界はこんなにも。こんなにも。


 『星数の奏者』。それは昨日をたぐり明日を怖がる唄い人。星を数え口ずさむその歌声はきっと。こんなにも。


 手刀に込めた最果ての力をかざし、彼は宿敵と対峙した。

 ここに来る前から、きっとこの宿敵はこうなる運命だと知っていたのかもしれない。唄う星の数を、打ち砕くために。



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