第35話 秘密兵器のアンドロイド
青黒い鱗に覆われているひょろ長い胴体と手足。そして長い尻尾がある。よく見ると、指がピクピクと震えているではないか。こいつは生きている兵器だと、そう思った。
「確かに生体を利用しているが、これは生物ではないぞ。正蔵」
シルビアさんに言われてはっと気が付く。自分は生きている兵器と口走っていたらしい。
「すみません」
「いや、かまわん。コレには生命の輝きである魂が感じられないな。椿、どうだ?」
「はい、生命体ではありません。サイボーグとも言えない。生体部品を使ったロボットです」
生物=生命体。サイボーグは生体を改造したものだから一応生命体。生体部品つまり、生物のパーツを使用しているからと言って、生命であるとは限らない。ややこしい、納得するのに時間がかかるじゃないか。
「なるほど。戦力としてはどの程度か?」
シルビアさんの問いに首をかしげる椿さんだった。
「うーん。これは謎が多いですね。まず、メインのリアクターですが、これは……霊力蓄積型反応炉のようです。ゼクローザスと同じで高次元化されています。恐らく6次元辺りまで蓄積できる容量があります」
「ほー。本家の出力を上回るのか?」
「はい。このロボットは、そうですね。数百人分の霊力で稼働すると思われます。現状、そのエネルギーコアを切り離されています。それで体がしぼんでいるのだと思います」
「そんな法外な霊力を必要とするのか?」
「今のところ、そう予測します。そうですね。戦力としてはゼクローザス百機以上。レーブル級巡洋艦だと十数隻分です」
また知らない言葉が出てきたので聞いてみる。
「ゼクローザスって?」
「それはアルマ帝国の戦闘用ロボットです。帝国では鋼鉄人形と呼ばれています。ゼクローザスは指揮官用の上位機種になります」
ララが丁寧な口調で説明してくれる。いつもの高慢ちきな態度がウソのようだ。
「ゼクローザスは帝都防衛の要なんだが、こんなのを投入されたら歯が立たないな」
「はい、間違いありません。最強の
「なるほどな。これは、クレド対策なのか?」
「そうだと思います。一般の人型機動兵器としては強力すぎるし、それにかかるコストも膨大です」
「そう思います。馬鹿げています」
そう返事をしたのはララ。見た目はちんちくりんで小学生のようなこの娘は親衛隊の隊長だった。軍事の色々については俺よりも詳しいはずだ。
「椿さん。さっき、数百人分の霊力だって言ってませんでしたか?」
「はい」
「それってまさか、人の命を動力源にしているって事?そうなの?」
「その可能性が大きいと思います。侵攻した地域の生命を吸い取りながら稼働し殲滅させる。そう予測します」
何だかトンデモナイものに遭遇したような気がする。コレをどうするのだろうか。破壊するのだろうか、いや、人の命を動力源にしている兵器など絶対に破壊すべきだろう。
その時、この大きな格納庫に数人の人物が入ってきた。
サル助の士官らしき人物が二人、サル助らしい2mの長身の男とやや低めでずんぐりした体形の男だった。それから2.5mあろうかという尻尾の有る大男、ローブを被った地球人のような体形の人物。その4人だった。
「動くな。手をあげろ」
十名程の兵士が突然現れる。光を遮る特殊な装置で身を隠していたようだ。この黒い鎧のような戦闘スーツは見たことがある。黒い兵士はビームライフルをこちらに突きつけてきた。
シルビアさんはあっさり両手を上げた。それに倣いララと椿さんも手を上げる。俺も恐る恐る手を挙げた。
「バーダクライドへようこそ。私が艦長のボリヌアスです」
立派な軍服を着たサル助の士官が艦長らしい。背が低くずんぐりとした方だ。
「あれほど確保に苦労したクレドを入手できるとは幸運だ」
「そうですね、ボリヌアス様」
スマートで長身の男が答える。こちらが副官らしき男だ。横にいる尻尾の有る大男はトカゲのような顔をしている。これが以前、椿さんの言っていたトカゲ大夫なのだろうか。このトカゲが話し始める。
「対クレドの実験にちょうどいいではないか。我々にとって未知の戦力。伝説だけで何も実体がないクレドがどの程度なのかこれで確認できる。おい、ボリヌアス。それまではクレドを壊すなよ」
「分かっております。メドギド様」
艦長のボリヌアスはメドギドと呼んだ男に対して恭しく礼をする。
「かしこまったことはいい。この毛無しをどう始末するかな?はあん?」
「は。メドギド様のお好きになさってください」
「好きにして構わんのだな」
「どうぞ。お気に召すまま」
そう言って大トカゲ男は俺に近づいて来た。
しゃがんで俺の顔を間近で見つめ頬をベロりと舐めてきた。蛇のように細長く、先が二つに割れている舌だった。ねっとりとした唾液がからみ頬を垂れていく。
「なかなか旨そうだな」
大トカゲ男は口の周りをなめながらニタニタ笑う。旨そう?俺を食うつもりなのか?さすがに背筋が寒くなる。
「こいつらに例の手錠を付けておけ。逃げられんようにな」
俺達は全員、大仰な手錠がかけられた。直径が5センチくらいある棒状のものを八の字にして両手に巻かれた。ゴムのような柔らかい素材だったのだが、それは縮んで硬くなった。
「そこの色黒の女とこの男を俺の部屋へ連れて来い。ガキはお前たちが好きに犯せ」
「クレドは?」
「それには手を出すな。この場で拘束しておけ。アルゴル!」
「はい」
アルゴルと呼ばれた男が椿さんに近づく。フードを被った姿の分からない奴だ。
そいつの右腕が椿さんを掴む。いや、右腕だと思っていたものは……ミミズのような環形動物の集合体で、這い出てきたミミズのようなゴカイのようなものが椿さんの体を這いまわっていく。無数のミミズが椿さんの体に移っていく。
俺が見たのはそこまでだった。シルビアさんと共にそこから外へ出された。自動で動く床に乗せられとある部屋へ押し込まれた。シルビアさんと二人きりになった。
「あの。椿さんとララは大丈夫でしょうか?ララさん犯すとか言ってませんでしたか?」
「うむ。大丈夫だ。問題ない」
自信満々に返事をするシルビアさんだった。
「問題ないって。そんな事信じられないんですが」
「お前、知ってるだろう。ララは親衛隊長だ。ぶっちゃけて言うと、一人でこの戦艦を制圧できる」
「え?」
「この中の兵士を皆殺しにできるって事さ」
「え?わざと捕まったんですか?」
「そういう事だ」
ますます分からない。わざと捕まって?何をするのか?
「正蔵。二人きりになったな。私と甘いひと時を過ごしてみるか?」
この爆弾発言をどうとらえていいのか。
俺は唯々狼狽していた。
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