第21話 奪還のアンドロイド
翠さんの操作でCICの入り口もあっさりと開いた。
中には自衛官が数人、ゾンビもどきになっていたのだが、ララと軍曹が即悶絶させた。
「手ごたえが無いのぉ」
「仕方ありませんよララ様。ところで翠さん。こいつらどうしますか?」
「廊下の邪魔にならないところへ寝かせておいて」
「了解しました」
軍曹が3人抱えて外へ出る。馬鹿力である。ララが一人、夏美さんが一人抱えて外へ出る。ララの体格で気絶した大の男をひょいと抱え上げるのだから驚きだ。
翠さんがバスケットからスマートグラスを取り出し小学生3人組とゼリアに渡し、4人を後ろ側のデスクに座らせる。ここは施設のメンテナンス用のエリアのようだ。
「みんな、さあお仕事ですよ。まずグラスのBluetoothを接続して。接続先はワタシ[midorichanchokawaii]よ。できたかな?」
「はーい」
小学6年生3人組は手を挙げるがゼリアはまごついている。
椿さんが手伝って接続できたようだ。
ゼリアが控えめに手を上げる。
「では皆さん。私の指示に従って下さい。ゼリア君は大型のスーパーパッ君を操ってゴーストを檻へ追い込みます。スーパーパッ君の武装はビリビリ剣と超探照灯。ゴーストは探照灯の光を嫌って逃げるので上手に追い込んでね。ゴーストに取りつかれるとライフが削られます。近接戦闘用のビリビリ剣でうまく追い払ってね。ライフがゼロになるとゲームオーバーですので気を付けてね」
「はい。操作は?」
「今、グラスの方へ転送しました。簡単なので頑張ってね」
「はい」
右手を挙げて元気の良い返事をするゼリア。しかし、キーボードを操作する手つきはぎこちない。
「残りの三人はプログラムの書き換えよ。指示した通りにお願いね。時間が無いので超急ぎます。競争よ」
「はーい」
小学生三人はどえらい勢いでキーボードをたたき始めた。
まあ、知ってはいたんだが、改めて見ると感嘆してしまう。特に五月。
こいつは紀子叔母さんの家に放置されていたアンドロイドのAIを組み換えたりしていた。自前でニューラルネットワークを構築する天才小学生である。
「やっぱ五月の勢いが一番だな。負けないぞ」
涼がつぶやく。
「早くてもタイプミスするから気にしない。トータルじゃあ俺が勝つ」
睦月も負けん気丸出しで突っかかる。
「俺も手伝おうか?」
「一本指打法の正蔵さんはジャマ。引っ込んでて」
五月に邪魔者扱いされた。まあ、その通りだから仕方ない。手元を見ずに指10本でキーボードを叩くなんて俺には無理なのだ。
「ララ様と軍曹さんはCICの外で警備してください。だれも入れないで。夏美姉様は2Fの電源設備と3Fのスパコンのチェックを。椿姉様と正蔵君は4Fのレーダー設備をチェックしてください。何か変な器機が接続されてないかよーく確認してください。エレベーター止めてますから階段使ってくださいね」
「了解した」
軍曹が敬礼して外へ出る。俺たちも続く。ララはいかにも退屈そうに返事をして外へ出てきた。
「じゃあ行ってくるね」
俺たちは右奥にある階段を使って上へ向かう。
夏美さんが肘で俺をつついてくる。
「なあなあ正ちゃん。君たちは何処まで行ってんの?恋のABCは今どこらへんかな?」
「恋のABCって何ですか?何かのハウツー物でしょうか?」
「え?知らないの?Aはキス。Bはペッティング。Cはセックス。まあ、カップルの発展段階をABCに例えてるんだな。ちなみにDは妊娠。こんな感じなんだけど」
「知りませんよ。何時の時代の話なんですかね」
「く、
ギリギリと歯軋りを鳴らす夏美さんである。
「多分、頼爺の青春時代のお話では……今から60年くらい前?」
椿さんの一言で今度は両手を握り締めゴキゴキと骨を鳴らす夏美さんである。
「『○○ちゃんはまだAまでだって。◇◇ちゃんはBだけど胸だけで下はまだって言ってた。△△ちゃんは見かけによらずCまで行ってるんだって。そう言えばまだ生理来てないとか言ってなかった?もしかしてDまで行ってたりして。キャハ!』とか言って余計なデータをインストールさせやがって。このくそジジイめ」
部分的に妙に低い声だった。椿さんの補足が入る。
「今の『』の中身は女子中学生の真似をする頼爺を夏美さんが真似してるのよ」
ややこしい。
「じゃあもう一度聞くよ。正ちゃん。やった?まだ?ABCの何処よ」
しつこくつついてくる。
「Aかな。キスだけです。他は何もしてません」
そういえば、ゼリアの目の前でキスしてそれっきり何もしてなかった。
「奥手だねぇ。童貞君ってのはやっぱ事実なんだ」
「童貞とか、そんな事どうでもいいじゃないですか。それにバタバタしててチャンスが無かったんですよ」
「あはははは。スマン。お詫びにちょっといい事してやる」
そう言って夏美さんは俺の右手を掴みそのままシャツの下へ入れる。そこには下着をつけていない生乳があった。手のひらにその柔らかい極上の感触が伝わる。ピンと尖った乳首にも触れた。俺は一気に興奮してしまい股間が堅くなってきた。その時。
ガキッ
椿さんの右手が手すりを握りつぶした音だった。
「夏美さん。正蔵様から離れてください」
頭を掻きながら夏美さんが離れた。
「悪りい悪りい。正ちゃんその気になってきたみたいだから、後はお二人でよろしくやりなよ。じゃあ」
夏美さんは防火扉を開け2Fへ入っていった。
椿さんは顔を赤くして俯いている。
「正蔵様。ここで……しちゃいますか?」
「ああ、それって、ええっと、したくないことないんだけど、あれ、で、ええっと、先に用事を済ませるのが、いいいいんじゃなないかな」
「股間のモノはいいんでしょうか。男の人は出さないと収まらないと聞いたことがあるのですが」
「大丈夫大丈夫。世間話しでもしてればすぐに収まるよ。大丈夫。あははははは」
二人して赤面しながら階段を上がる。この階段は船舶のタラップみたいな金属製で歩くたびにカンカンと金属音がする。
「下は何してるのかな?」
「大雑把に言うと、システムの奪還と偽装工作ですね」
「奪還は分かるけど偽装工作って?」
「奪還したことがバレないように偽装するんです」
「ちょっと意味わかんないな」
「此処のシステムは大きく分けて2つのブロックがあります。対空ミサイルを管理するAブロック、巡航ミサイルを管理するBブロックです。Bブロックのシステムは綾瀬重工が開発していますので、ソフトウェア関係を含め、システムは全て把握出来ています。まずここにVR環境を設定します。そうしてイージスのシステムが全てBブロック内に有るかのように偽装します」
「手が込んでるね」
「ええ。そして四次元憑依型マルウェアを全てBブロックへ移動させます。Aブロックを奪還し、Bブロックの方は泳がせておく。敵側からはここイージス・アショアを全て、つまり、AB両方のブロックを掌握しているように見せかけるのです。もちろん時間稼ぎにしかなりませんが、その間に戦術ネットワークを奪還し、サイバー戦において主導権を握ります」
「そんなことが可能なのかな?」
「大丈夫。だって敵方のシステムはあのゲルグガラニア大尉の設計なのですよ」
「ああ、そうか。でも俺ならその大尉の裏をかくようなことを絶対にするぞ。そう言った場合を想定してあるのか」
椿さんはニコニコしながら頷く。
「勿論ですよ。ご心配なく」
そんな話をしているうちに4Fへ着いた。
俺たちは防火扉を開いて中へ入っていった。
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